優先すべきは選手の健康ではなく日程
足がつることは、決して軽視していい状態ではない。これは熱中症の初期段階である「熱けいれん」だ。
厚労省のHPによれば「汗で失われた塩分が不足することにより生じる筋肉のこむら返りや筋肉の痛みのこと」とある
地方選手権大会を行う球場には医師や理学療法士が待機している。熱けいれんの症状が出た選手には経口補水を飲むよう勧めたり、筋肉をほぐすマッサージをしている。
しかし、水分補給やマッサージだけで、プレーを続行させるのは極めて危険だ。ましてや複数人も足がつる選手が出ている状態では、試合を中断するべきではないだろうか。
その判断は医療スタッフではできない。判断は審判、高野連にゆだねられているが、彼らが決断をすることはない。
地方大会は、甲子園の決勝戦から逆算してタイトな日程で組まれている。夏の甲子園は優勝校を頂点として巨大なツリー構造になっているが、その裾に当たる地方大会の日程が狂ってしまうと、甲子園大会にも影響が出る恐れがある。
ただでさえも近年は異常気象で、雨天順延が増えている。熱中症で試合が延期になるのは想定外であり、何としても避けたいと言うのが主催者側の本音だ。
サッカー協会が導入しているガイドライン
近年、環境省は熱中症の指標として、気温ではなくWBGT(暑さ指数)という数値の情報を提供している。
これは①湿度、②日射・輻射など周辺の熱環境、③気温の3つをもとに算出したもので、気温が低くても湿度が高くて直射日光が当たるところでは、熱中症になる可能性が高くなる。
日本スポーツ協会はWBGTが31度以上では、すべての生活活動で熱中症がおこる危険性があるとしている。並行して気温35度以上では「特別の場合以外は運動を中止する」「特に子どもの場合には中止すべき」という指針を出している。
日本の夏は、すでに運動をすべき環境ではなくなっている。
そんな中、日本サッカー協会(JFA)は2016年、熱中症対策ガイドラインを導入。
■WBGT=28度以上となる時刻が試合時間に含まれる場合は、事前に『JFA 熱中症対策』を講じる。
その基本は、WBGTが31度以上、最高気温が35度以上では試合を行わないということだ。
選手の健康を一番に考える「プレイヤーファースト」の観点に立てば、至極当然の決定だと言えるだろう。
夏季インターハイ(高校総体)のサッカー競技はJFAではなく高体連が主催しているが、この試合会場でもWBGT計が設置されている。試合時間は前後半35分と本来の試合時間より10分短くなり、さらにクーリングブレイクや給水時間も設定されている。
残念ながら、高校野球はこうした対策を全く講じず、医師を待機させたり、水分補給体制を補強するなどの対応しかしていない。