「敵に水を送る」は美談ではない
そういう状況のなか、今夏は美談仕立てのエピソードがいくつか報じられるようになった。
7月13日、熊本県大会、翔陽ー八代戦。9回の攻撃。マウンド上で八代の投手の足がつった。八代ベンチから水分が届けられたが、その後も異状を訴えた。しかし八代はタイムを取ってしまったため、マウンドに駆け寄れずにいた。それを見た翔陽の投手がマウンドに駆け寄り、苦しむ八代投手にペットボトルを差し出した。(熊本日日新聞7月13日)
7月16日、京都大会、京都廣学館ー鴨沂戦、5回表、京都廣学館の投手が足をつった。すかさず、鴨沂の主将がマウンドへ水を届けた。(朝日新聞7月17日)
これらの話は「これぞスポーツマンシップ」という論調で報じられたが、筆者には疑問だ。国際大会なら「ドーピング疑惑」が生じてもおかしくない行為だ。
もし、投手が相手チームの提供した飲料を飲んだ後に、症状が悪化したらどうするのか。選手の中には何らかのアレルギーを持っていて、相手校から提供された飲料を受け付けない可能性もあるだろう。軽々に、対戦相手に対して飲料や食料を提供することなど、あってはならない。
なぜ審判は何もしないのか
さらにルール違反の可能性もある。
日本における野球の公式ルールを定めた公認野球規則には以下のように書かれている。
(1)プレーヤーが、試合前、試合中、試合後を問わず、観衆に話しかけたり、席を同じくしたり、スタンドに座ること。
(2)監督、コーチまたはプレーヤーが、試合前、試合中を問わず、いかなるときでも観衆に話しかけたりまたは相手チームのプレーヤーと親睦的態度をとること。
審判は「マスターオブゲーム」という存在だ。試合においてすべての権限を有している。
公認野球規則には「審判員は、本規則に明確に規定されていない事項に関しては、自己の裁量に基づいて、裁定を下す機能が与えられている」と明記されている。
選手が足をつるなど苦しそうな動きを見せたときは、球審がまず「タイム」を宣するべきだ。
そのうえで試合を中断し、水分補給を指示して、選手をベンチの中など冷たい場所で休息させるべきだ。相手チームの選手が、見るに見かねて飲料を与えるまで、審判が何もしないことが、そもそもおかしいのだ。
足がつる選手が続出するようなケースでは、試合の中止、再試合も検討すべきだ。