かつては1000気圧もの高圧が必要だった

そこで、チーグラーは、ニッケルのような遷移元素(周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素)といわれるグループの金属や化合物を薬品庫からすべて持ち出し、手当たりしだいに実験しました。

そして、1953年10月26日、ジルコニウムという金属の化合物とトリエチルアルミニウムを触媒にすると、何千個ものエチレン分子がつながってポリエチレンという巨大な分子になることを発見したのです。

さらに、四塩化チタン(TiCl4)とトリエチルアルミニウム〔Al(C2H53〕の組み合わせが最高の触媒になることを発見しました。小さな分子をたくさんつなげる反応を「重合反応」といい、これを促進する触媒を見つけたのです。

それまでは1000気圧もの高圧でエチレンを重合してポリエチレンをつくっていましたが、ついに常圧でも重合反応を簡単に進められる夢のような「チーグラー触媒」を発見しました。

戦時中は金塊以上の価値があるものだったが…

この触媒どうしが反応してチタンの特殊な化合物ができると、チタンのイオンがエチレンの分子を取り込み、エチレンをどんどんつなげて巨大な鎖状の分子にすることができます。

ポリエチレンは第2次世界大戦ではレーダーの素材として一国の運命を握る分子でした。その合成は高圧を必要として困難を極め、戦略物資として金塊以上の価値がある物質でした。それがいまやスーパーマーケットのレジ袋やショッピングバッグなどとして大量に使用され、ゴミ問題を起こすほど氾濫しています。

この大量生産を可能にしたのがチーグラー触媒なのです。この触媒の発明は世界中の研究者に衝撃を与えました。まさに現代の魔法であり、“カール・チーグラーと賢者の石”のような衝撃でした。

チーグラー触媒が垂涎すいぜんの的となり、世界中の研究者がその情報の入手に忙殺されるなか、当時の三井化学工業の社長が1954年、ライセンス料も含めた見学料として、なんと約4億3200万円もの大金を払うことを即決したのです。