病気などが寿命を早めている「寿命ロス」の年数と、病気などによる健康損失を健康寿命換算した「健康ロス」の年数の合計をダリー値という。統計データ分析家の本川裕さんは「腰痛や難聴といった直接的には死に至らない傷病が人にもたらすツラさや深刻さのダリー値は、脳や心臓の疾患、がんなどよりも高い」という――。

「腰痛」のほうが「肺がん」より深刻というのは本当か

病気やケガ、そして自殺や事故など(以下、傷病と呼ぶ)がどれだけ社会にダメージを与えているかについての指標としては、「死因別死亡者数」や「傷病別患者数」などがある。

死因別死亡者数だけでは死に至らない病気の苦しさが測れず、傷病別患者数だけでは病気による深刻さの程度が分からない。そこでそれらを総合して測る指標としてダリー値(DALY、”disability-adjusted life year”)が登場した。ダリー値の直訳は「障害調整生命年」だが、ここでは「寿命・健康ロス」と呼ぶ。

今回は、このダリー値で傷病の深刻さランキングを確認するとともに、本稿後半ではダリー値で測った「うつ病・躁うつ病」と「自殺率」とが相関しているかを世界各国データで見てみよう。

ダリー値は、WHOの定義によれば「死が早まることで失われた生命年数と健康でない状態で生活することにより失われている生命年数を合わせた時間換算の指標」である。具体的には病気などが寿命を早めている「寿命ロス」(YLL)の年数と、病気などによる健康損失を健康寿命換算した「健康ロス」(YLD)の年数の合計で算出されている(注)

(注)大雑把にまとめるとそれぞれは次のように計算される。寿命ロス=「死因別死亡人数」×「各人の平均余命」。健康ロス=「傷病発生数」×「障害ウエート」×「治癒あるいは死亡に至る平均年数」。ただし、障害ウエートは死亡に換算した傷病の健康被害度。

病気については、生活習慣病の増加など死因別死亡率から推測される疾病構造の変化を踏まえ、保健医療政策が立てられてきた。しかし、死因としては表れにくいが健康上の問題としては大きいうつ病や認知症、あるいは腰痛、難聴などを含めた社会的ロスをダリー値として指標化することによって、より適切な保健医療対策への資源配分(財源、研究、人材の配分)が期待されている。

米国などでは疾患の研究に投じられる研究費額がダリー値と最もよく相関しているともいわれる。ここではWHOによる2019年推計値の各国別の値から先進国と比較しながら日本の傷病の状況を概観してみることにする。

図表1に、傷病のランキング、あるいは先進国との比較を容易にするため、参考図表として、各傷病のダリー値の総数に占めるシェア(%)を示した(図表2)。