日本貿易振興機構のレポートによると、中国のカラオケの市場規模は約2兆円で、日本の5倍以上になる。このうち勢いのあるサービスが「ひとりカラオケ」だという。深セン市越境EC協会日本支部代表理事の成嶋祐介さんは「ユーザー同士の交流を促すコミュニティ機能が、市場拡大に寄与している」という――。

※本稿は、成嶋祐介『GAFAも学ぶ! 最先端のテック企業はいま何をしているのか』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

カラオケ
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

急成長している中国テック企業の共通点

現在の消費の現場では、商品やサービスを購入する際、その機能や内容よりも「あの人がお薦めしているから」「あとひとりで共同購入が成立するから」といった「ヒト」が意思決定の主軸になっています。

マーケティングの分野では、プロダクト中心の「モノ消費」から体験中心の「コト消費」への変化、などとよくいわれますが、そこからさらに「ヒト消費」ともいえる人間中心の評価軸へと大きく変化しています。

この「ヒト消費」への変化を加速させているエンジンこそエンターテイメントです。ユーザーが楽しみながら(エンターテイメントとして)自己実現を追求することで、結果として信頼性の高い情報が集まり、商品やサービスの価値が高まっていくのです。

このように、「エンターテイメント=ユーザーにとっての楽しさ」の追求によって大量のユーザーデータを獲得し、サービスを急成長させているテック企業には、ある共通の特徴があります。その特徴を、私はDXをさらに一段階進化させたEX(エンターテイメント・トランスフォーメーション)と呼んでいます。

EXを実践している世界最先端のテック企業をご紹介しましょう。いずれも、ここ10年ほどの間にサービスを立ち上げた新興企業です。彼らはどのように「エンターテイメント=ユーザーにとっての楽しさ」を、自身の成長曲線に位置づけているのでしょうか?

伝統的なエンタメ「カラオケ」が中国で大進化している

日本のカラオケ業界は、長く苦境が続いています。

市場規模は1996年の1.2兆円をピークに2019年は約4000億円まで縮小。全国カラオケ事業者協会の「カラオケ白書2022」によると、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大にともなう政府の緊急事態宣言(4~5月)の影響もあり、前年比48.1%減と半分近くまで激減。2021年はさらに2割減少し、市場規模は1550億円となりました。

カラオケボックスは、賃借料や人件費などの固定費が80%を占めるビジネスモデルであり、需要の減少がそのまま収益を圧迫しています。中国でもカラオケは人気の娯楽のひとつですが、日本と同様、近年では大人数でカラオケを楽しむ習慣はだんだん減ってきていました。

一方で、若年層を中心に少人数や個人でカラオケを楽しむ傾向が見られています。そのトレンドにいち早く対応した企業が「北京小唱科技」です。