中国の「ラッキンコーヒー」は、創業から4年でスターバックスコーヒーの店舗数を超え、中国一のコーヒーチェーンになった。深セン市越境EC協会日本支部代表理事の成嶋祐介さんは「急成長の秘密は、最先端のテクノロジーにある。『誰が、どの商品を、いくらで購入したいか』という個々のユーザーの消費行動にあわせてプッシュ通知をするので、効率的に集客できている」という――。

※本稿は、成嶋祐介『GAFAも学ぶ! 最先端のテック企業はいま何をしているのか』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

中国のラッキンコーヒー
写真=iStock.com/Julien Viry
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絶妙なタイミングでグルメサイトから通知が届く

週の終わりの金曜日。あなたは仕事帰りに、居酒屋に立ち寄ってお酒を楽しんでいます。ふと時計を見ると、夜の21時を回っていました。

「締めにラーメン屋にでも立ち寄ろうかな……」

そう思ったそのとき、あなたのスマートフォンに1通のプッシュ通知が入りました。

「22時からタイムセールやります。ラーメン1杯900円が450円に!」

そのラーメン店を調べてみると、最近オープンしたばかりのお店で、徒歩で数分の場所にあるようです。ジャンルもあなたの好みにマッチしています。しかも半額となれば、行かない理由が見当たりません。

あなたはお酒をもう1杯注文し、22時まで待つことにしました――。まるで、「飲んだあとは締めのラーメンを食べる」というあなたの消費行動をスマートフォンが見透かしているかのような内容とタイミングのプッシュ通知です。

でも、本当にそれが「見透かされている」としたら……すごいことですよね? テック企業の最前線では、こんなSFのような世界が実現しています。

24時間、需要と供給をマッチさせるアルゴリズム

中国の最大手グルメサイト「メイトゥアン」では、ユーザーの属性、過去の注文履歴、店舗に対する評価など、さまざまなユーザーデータを取得しています。これらのデータをもとに、個々のユーザーにカスタマイズされた内容、タイミングのプッシュ通知を送っているのです。

ラーメン店の側も、じつは「まだオープンしたばかりで、22時以降の来客が少ない」という悩みを抱えています。メイトゥアンのようなプラットフォーマーは、店の側にも「この時間にはこういうユーザーにタイムセールをかけるといいですよ」と裏でプッシュ通知を送っています。

こうして、消費者であるあなたのニーズと、来客を増やしたいお店側のニーズが、双方のプッシュ通知によってうまくマッチングされたというわけです。

さらに、稼働率の低い深夜などの時間帯に営業していれば、そのお店は瞬間的にランキング上位に表示される設計になっています。これが店側にとって強力なインセンティブとなり、冒頭のような深夜営業の「夜鳴き蕎麦」のサービスが現に増えています。

こうして、24時間すべてが自然と需要と供給のマッチングで埋め尽くされていきます。しかも、その絶妙なマッチングは、AIのアルゴリズムによって自動的に行われているのです。