ユーザーの消費行動に合わせたプッシュ通知

このラッキンコーヒーの復活劇は、当初のビジネスモデルが消費者の支持を失っていなかったことを表しているといえるでしょう。価格に敏感な中国の国民性にもマッチしたともいえます。

ラッキンコーヒーもたんなるコーヒーチェーンではなく、その実態はまぎれもない「テック企業」です。ラッキンコーヒーの注文はすべてスマートフォンアプリから。メニューを選択して注文し、できあがる頃に店舗まで受け取りに行くか、宅配を選びます。

このスマートフォンアプリこそ、ラッキンコーヒーのビジネスの要です。アプリをとおして大量のユーザーデータを取得し、AIのアルゴリズムを裏側で回しています。

それによって、同じ商品でもユーザーによって半額になったり、3分の2になったり店舗やユーザーに応じてパーソナライズされた異なる価格を、プッシュ通知で呼びかけています。「2人で買うと割引」「5000円分のチケットを購入したら半額」など、さまざまなパターンの割引サービスもあります。

AIを駆使したマッチングで「空白をつくらない」

さらに、稼働率が悪い店舗があったら、その周辺にいるユーザーに、しかも、割引に敏感なユーザーをセグメントして、割引のクーポンをプッシュ通知で送るなど、ここでも「空白をつくらない」需要と供給のマッチングが常に行われているのです。

ユーザーデータから「このユーザーはこのくらい割引しないと買ってくれない」というミクロレベルまで消費行動を把握できているので、プッシュ通知の内容も常に最適化されているのです。ある意味、ダイナミック・プライシングにも近いシステムといえます。

さらに、ラッキンコーヒーではユーザーの位置情報も、スマートフォンのGPSから常にリアルタイムで「見える化」されています。

その情報を表示するBIツールも非常に優れもので、たとえば、「赤いドットは20代女性」「青のドットは10代男性」などと視覚化され、ダッシュボードに表示されています。どの属性の人が、どの場所で、どのくらいコーヒーを買っているのかがヒートマップで、ひとめでわかるようになっているのです。

このBIツールなら、データ分析の専門家でなくても「どのエリアでコーヒーが売れている/売れていない」というのが一目瞭然です。結果、データに強くない社員からも多くのアイデアが生まれ、採用されることもあるそうです。

いまや新興企業のロールモデルに

このように、データの収集やAIによる解析というテクノロジーに目が行きがちですが、その結果を視覚的に伝え、共有するシステムにも、世界のテック企業にはおおいに学ぶべきものがあります。

アメリカでの上場廃止のピンチを乗り越え、短期間で「打倒スタバ」を果たしたラッキンコーヒーは、中国国内の新興企業にとっても優良なロールモデルとなり、同社の成功を模倣したさまざまな飲料サービスが生まれています。チーズティー専門店の「ヘイティー(喜茶/HEYTEA)」はその代表です。