理由を説明せずに相手を納得させる方法

もし、あなたの考えを説明しなくても、あなたの案が採用されたらいかがでしょうか。「そんなことできるの?」って思いますよね。結論、できます。「背理法」を使って。

「背理法」とは、高校の数学に出てくる用語で、「命題が正しくないと仮定すると矛盾が生じるので、やはり命題は正しい」と証明する方法です。

これだけ聞くと、よくわからないですよね。私も数学が一番苦手だったので、「証明」と聞くだけで頭がこんがらがります。

でもこの背理法、ビジネスシーンではよく登場します。

今回はわかりやすいように、簡略化して背理法を解説します。

例えば、自分がXという意見、相手がYという意見で、対立していたとしましょう。

普通なら、自分はXの正しさを説明しますが、背理法の場合は違います。

まずはYという意見に乗っかり、そのあと矛盾を指摘します。

「わかりました。では、Yが正しいと仮定しましょう。そうすると、こんな矛盾が生じますよね。だからXのほうが正しいのではないでしょうか」。こんな論法です。

相手の意見の矛盾を指摘して自分の考えを通す

具体例に当てはめてみると、わかりやすいと思います。

Aさんは、「このプロジェクトは佐藤さんに任せましょう」と言う。

Bさんは、「五十嵐さんに任せましょう」と言う。

この場合、AさんはまずBさんの意見に乗っかります。

【A】五十嵐さんに任せるのもありですね

【B】ですよね

【A】ただ、五十嵐さんは、今進行中のタスクを5つ抱えています。五十嵐さんにお願いすると進行に遅れが生じませんか? それにこれ以上、五十嵐さんにお願いするのは酷ではないかと思うんです

【B】五十嵐さんにお願いするのは難しいかもしれませんね……

【A】ここはひとつ佐藤さんにお願いしませんか

【B】そうしますか

こんな流れです。

どうでしょうか。Aさんは、五十嵐さんにお願いしたときの矛盾を指摘しただけで、佐藤さんのほうがいい理由を一つも説明していません。まさに背面の理屈をついたような説明です。

職場の会話をよく覗いてみてください。

上司が「この仕事は君にお願いしたい」と言う。でも部下は「なんで私が……」と思っている。そんなとき、上司は、「もしこの仕事をやらなかったら、いつまで経ってもこの仕事を覚えられない。だからやるべきだよ」なんて主張したりします。

でも、よくよく考えれば、覚える必要のない仕事かもしれませんし、アウトソーシングしていい仕事かもしれないのです。

桐生稔『話し方すべて』(かんき出版)
桐生稔『話し方すべて』(かんき出版)

これも説明していない説明の例です。

「仮に腕相撲で勝負を決めるとするじゃん。それだと力が強い人が勝つじゃない。だからジャンケンで決めようよ」

実際こんな会話があるかどうかは別ですが、これもジャンケンの正当性は一つも説明していません。

「もし、○○したら」と相手の意見に乗っかり矛盾を指摘する。そして自分の考えを通す。そういう説明の仕方もあるのです。

柔軟に、しなやかに、いろんな場面に対応できるように、説明のパターンとして背理法を知っておくと便利です。

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