もっとも、多忙がすぎれば体を壊す。「今日中にやってくれ」「3日後までに調べろ」という無理難題に対して、僕は自分なりに次のような対処基準を設けることにした。(1)どんな要求にも必ずアウトプットを出す、(2)精度や完成度は必ずしも100%に固執せず60%でよしとする――この2点である。

僕は勝手に「60点主義」と名づけ、通常の仕事のほか急な頼まれごとを次々こなしていった。するとますます上役から信頼されるようになり、「君は余人をもって代えがたい」とまでいわれるようになったのである。

出典:労働政策研究・研修機構

あとになって知ったのだが、当時の僕のような状態こそ「共有地の悲劇」に当てはまる。担当分けがきっちりしていない職場では、気の利いた若手社員にあらゆる仕事が殺到してしまう。頼む側は直接の部下ではないという意識があるから、長期的な見地から仕事をセーブしてやるといった配慮をしないのだ。

そのため、一方ではヒマな社員はいつでもヒマだという別の問題も生じてしまう。村田教授が指摘したとおり、多忙な上司は、アウトプットに期待できないダメ社員には最初から仕事を振ろうとしない。ヒマをもてあましたダメ社員は、チャレンジする機会を与えられないのでいつまでも実力がつかず、さらに落ちこぼれていくのである。

さて、ダメ社員のことはともかく、多忙すぎる若手が仕事でつぶれないようにするにはどうするか。

対策の王道は、その部署のトップが仕事の交通整理をきちんとしてやることだ。それが間に合わないときは、若手自身が知恵を働かせるしかない。悩んだときは僕が村田教授に愚痴をいったように、一人で抱え込まず誰かに相談することだ。

そしてもう一つ、能天気な僕はそのころ「共有地の悲劇」なんてネガティブな言葉を知らなかった。これは幸いだったと思っている。世の中には、知らないでいるほうが幸せなことだってあるのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=面澤淳市)
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