メールを打つのは相手が不在のときだけ

そもそも、私は相手と直接顔を合わせて対話をすることがなによりも大事だと考えています。仕事上、常に接しているのは執行役員である部門長や部長ですが、彼らとの意思疎通に電子メールを使うことはほとんどありません。用事があれば本人や秘書に直接電話をかけ、社長室へ来てもらってフェース・トゥ・フェースで話をします。

メールを打つのは、相手が本社に在席していないときだけです。彼らは出張先でも随時ブラックベリーやスマートフォンでメールをチェックしていますから、私がメールを出せば、1時間以内にレスポンスが返ってきます。

声の調子でメールではわからない情報が得られますから、小さな案件なら電話で済ませます。しかし、「この件は深く話をしておきたいな」と判断したら、必ず対面して話すようにしています。その際、私の問いに答えるときの仕草や顔つき、しゃべり方を見るのです。

たとえば、大きな契約で他社と競っているときには、担当の部門長や部長を呼んで、質問します。客先や競合の状況を推測すると、丸紅のポジションはどうか。お客様はどこまで丸紅に期待しているのか。この案件は本当に勝てるのか――。かなりしつこく聞きますよ(笑)。

すると、ときには「これは言葉とは違った何かが起きているな」「自信がないようだ。このビッド(入札)には勝てそうもないな」ということがわかるのです。

面談を重視するのは社内だけではありません。私はふだん、朝6時45分に出社し、早いときは7時半からミーティングを始めています。

このような早朝始業を習慣化したのは、執行役員財務部長だった03年からです。丸紅の財務状態は01~02年に危機を迎えたものの、当時はすでに回復軌道に乗っていました。ところが欧米の格付け機関は逆に当社の格付けを引き下げ、そのことが755億円の優先株発行の重石になっていました。

逆風下で増資を達成するためには、それだけの説得材料を持って格付け機関や金融機関をまわり、彼らの理解を得なければなりません。だから8時半までに社内のミーティングを済ませ、彼らの始業時間である9時に間に合うように会社を出るようになりました。

考えてみれば、こういった動きは商社の仕事の基本です。会社から電話、メールをするだけで商売ができるはずはありません。あくまでもお客様と話をして、商売をとってくるのです。始業時間の9時から社内でミーティングをしていたら、そのぶんの時間が無駄になります。

時間だけの問題ではありません。初動を早くするということは、常にポジティブな心を持つということです。どんなに悪い環境にあっても、必ずその先にはバラ色の未来が待っているんだという明るい気持ちでいることが大事です。これは私自身の経営者としての自戒ですが、若い諸君にも、常に明るく、ポジティブな心を持っていてほしいと思います。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 的野弘路=撮影)
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