終戦目前にソ連が出した嘘だらけの宣戦布告文

このときの宣戦布告文は次のようになっていた。

「本年7月26日付の日本軍の無条件降伏に関するアメリカ合衆国、イギリス、中華民国の3大国の要求は日本軍によって拒絶された。(中略)

連合国は日本の降伏拒絶に鑑み、ソ連に対し日本に参戦し、それによって戦争終結の期間を短縮し、犠牲者の数を減らし、速やかに全体の平和回復を促進するようにとの提案を行った。

連合国としての義務に忠実なソ連政府は、このようなソ連政府の政策は平和の到来を近づけ、諸国民を一層の犠牲と苦しみから解放し、ドイツが無条件降伏を拒んだあとドイツが経験した危険と破壊から免れる可能性を日本国民に与えることができる唯一の手段であるとみなしている。(後略)」

これを読むと唖然とする。宣戦布告で嘘をいうとはソ連はどういう国なのだろう。前にみたように、前段はその通りだが、中段と後段は真っ赤な嘘である。ソ連を除く連合国は、日本に対する戦争にソ連が加わることを、この当時提案してないし、望んでさえいなかった。

また、ソ連が加わることで、戦争終結の期間を短縮し、犠牲者の数を減らし、速やかに全体の平和回復を促進できるなどあり得ず、まったくその逆だと思っていた。とくに英米は日本軍および外務省の暗号電報の解読から日本が降伏を決意する最後の瞬間を迎えていたことを知っていた。終戦は目前にあった。

天皇の「終戦の詔勅」はソ連には無意味だった

ソ連が日本との間の日ソ中立条約に反して、降伏寸前の日本に背信的侵略を始めたのは、宣戦布告文の中の美辞麗句とは裏腹に、日本から領土を奪うという大義のない、不法なものだった。

真岡市(現在のホルムスク市)の路上に駐留するソ連軍。1945年8月
真岡市(現在のホルムスク市)の路上に駐留するソ連軍。1945年8月(写真=撮影者不明/PD-Russia-1996/Wikimedia Commons

加えて、このまま黙っていたのでは、英米が日本の領土や将来の姿を決める「われわれ」の中にソ連を入れてくれない、できるだけ多くの日本の地域を軍事占領しておかないと、日本の戦後処理で英米と対等に渡り合うことができないということもある。だからソ連は侵略したのだ。

8月15日、昭和天皇は「終戦の詔勅」(玉音放送)を発して戦争終結を宣言し、大本営はすべての日本軍に戦闘停止を命じた。同日、トルーマンも日本の降伏を発表し、アメリカ軍に戦闘停止を命じた。だが、これはソ連軍にとってなんの意味もなかった。それはソ連軍を除く連合軍と日本軍の間の戦闘停止命令だからだ。