一人ですべてをこなすオールラウンド・プレーヤー

サンの女性は、近年においても犬を連れて狩猟し、罠を仕掛けて鳥や小型の動物を捕まえている。採集の途中で動物の足跡を見つけると、女性たちが足跡を追跡して獲物に近づき、ついには掘り棒で殴って仕留めることは、よくあることである。また、トビウサギに特化した猟法で女性たちが円陣を組み、集団でこの小動物を次々追い詰め狩猟する場面を私は目撃したことがある。

他の民族例を挙げると、アフリカの熱帯雨林に住むムブティ・ピグミーは、男女が共同でネット・ハンティングをおこなうし、オーストラリアのアボリジニ女性が犬を使って小型動物とカンガルーを狩猟する例、女性が本格的に狩猟に加わるフィリピンのアグタの例も報告されている。

また、採集活動のほうに目を向けると、採集はブッシュで生きぬく基本であり、男性もまた日常的に採集をおこなう。とくに男性たちが騎馬猟などで1カ月以上キャンプを離れてブッシュの中で生活するときは、男性もまた植物についての知識を持ち、自分で野生の植物や薪、水を集め、料理できなければ生き延びることができない。狩猟採集民は、一人ですべてをこなすことができる「オールラウンド・プレーヤー」であり、これこそが彼らが階層のない平等主義的な社会を築いてきた根底にあるのである。

やりと矢じり
写真=iStock.com/batuhan toker
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母親になってからも変わらず狩猟をおこなっている

さて、今年の6月に狩猟採集民の女性が狩猟活動に重要な役割を果たしてきたことを示す研究が発表された。アンダーソン博士(シアトル・パシフィック大学)の研究チームが投稿した論文によると、女性は先史時代から狩猟に深く関わってきたという。例えば、ペルーの9000年前の遺跡からは、狩猟道具と共に埋葬された成人女性が発見されている。また、南北アメリカの先史時代において、大型動物を狩猟していたと考えられる27遺跡を分析したところ、女性が大型動物のハンターとして男性と同じくらい狩猟に参加していたことが明らかになった。

アンダーソン博士たちは、女性が狩猟をおこなっていた証拠を考古学の遺跡に求めるだけでなく、近年から現代に生きる狩猟採集民の民族誌の中から探ろうとした。この目的のため、過去100年間に公開された数十の学術論文に記載されている、北米、アフリカ、オーストラリア、アジア、オセアニアの63の狩猟採集社会における狩猟活動の実態を分析した。その結果、それらの社会の約8割の社会で女性が狩猟活動に参加しており、母親になっても変わらず狩猟を行っていることが明らかになった。

さらに、女性の狩猟の9割近くは、偶然獲物に出くわしたからおこなう場当たり的なものではなく、あらゆる大きさの獲物を意図的に狙って狩るものである。鳥やウサギといった小動物だけでなく、大型動物を狙ったものも多かった。

アンダーソン博士たちは、狩猟採集社会において男性が狩猟を、女性が採集をおこなうという定説を覆すべきであると結論づけている。