まさかの戦略転換の理由
一般的には、成功した路線をひた走る。しかし江崎グリコは2020年ごろから大きく戦略を変えた。
理由のひとつは売り上げの伸び悩みだ。
「大人の女性にターゲット層の裾野を広げたことで、確かに売り上げは伸びました。ですが、この路線で続けるには、ブランドのあり方を大きく変える可能性がでてきました」
戦略を変えた理由はそれだけではないだろう。商品の原点である子どもから離れてしまったことではないか。
大人がビスコの新商品に反応したのは、味もさることながら幼少期にビスコに親しんだ記憶が大きい。あの懐かしいビスコが面白い新商品を出している、そんな意外性が注目を集めヒットにつながった。
だが、大人向けの商品に注力しすぎては、将来の顧客である子どもの支持を失うことになる。子どもの健康向上というビスコの原点が揺らぎかねない……。
そんな私の推測に対し広報は「お子さまが離れたというより、よりお子さまにビスコの価値を知っていただけるよう戦略変更をしました」と話す。
さらに、吉田さんは「お客さまからは『子どもに手軽に栄養をとらせたい』や、『子どもに安心して与えられることが購入動機』という声を聞いていました。そうした親子のお客さまこそがビスコの原点ではと痛感しました」と当時を振り返った。
「おいしくて、つよくなる」の意味
江崎グリコは、創業者であり開発者である江崎利一の「健康増進に貢献したい」という思いに回帰することを選んだ。
「方針転換については社内でも議論がありました。子どものすこやかな成長に寄与する価値を提供することの方が重要であると結論を出しました」(吉田さん)
原点回帰への方針転換を受け、2020年にビスコは大幅なリニューアルを行った。
パッケージにある「おいしくて、つよくなる」の言葉そのままに、乳酸菌に食物繊維を一緒にとることができるようにし、ビスケットの食感も改良。「ビスコ史上最大のクリーム量」という従来比25%増のクリーム量に変更をしている。さらに、自社ホームページでは、母子をターゲットに、「子どもの成長」「乳酸菌配合」を強調していることがうかがえる。