江崎グリコのビスケット菓子「ビスコ」は、今年で発売90周年を迎えるロングセラーブランドだ。2018年ごろまでは「子どもだけでなく大人も一緒に食べられる」味の展開が好調で、売上高は5年連続で過去最高を更新していた。だが、2020年には15年ぶりのリニューアルを行い、原点回帰を図った。この戦略変更は、なぜ行われたのか。ライターの圓岡志麻さんが取材した――。

今年で発売90年を迎えたビスコの秘密

長年愛され続けるブランドにはどんな秘訣があるのだろうか。

今年、江崎グリコ(大阪府大阪市)のビスケット菓子「ビスコ」が発売90周年を迎えた。

「ビスコが子どもだけでなく全世帯に認知されるまでには、さまざまな試行錯誤がありました。とくにここ最近は、お客さまに何を届けるべきなのかをよく考えました」と話すのは、江崎グリコでビスコのマーケティングの吉田善一さん(取材当時)だ。

聞けば、2020年代にビスコの歴史の中でも大きな戦略の変換が行われたという。だれもが知るロングセラー商品に何があったのか。その顚末てんまつを詳しく聞いた。

名前の由来は「酵母ビスケット」

1931年、ビスコは江崎グリコの看板商品であった栄養菓子「グリコ」に次ぐ第2の栄養菓子として開発が始まった。

「当時は国民に十分に栄養が足りていない時代で、子どもの死亡率も高かった。創業者である江崎利一は『食品事業を通じて幅広く国民の健康向上に貢献したい』という強い思いを持っていました」(吉田さん)

ある時、江崎利一は、胃腸の働きを助けるなど、酵母に栄養効果があると知った。そこで酵母をクリームに含ませ、ビスケットで挟むことを考案したのだ。出来上がった酵母が入った栄養菓子は、「酵母ビスケット」の略称「コービス」が由来で「ビスコ」と命名された。

初代ビスコ
画像提供=江崎グリコ
初代ビスコ

1933年、創業10年の江崎グリコが出した新商品は、新聞や百貨店での宣伝のほか、医師会や学校バザーを通じたキャンペーンなどが功を奏し、順調な売り上げを確保していったという。

「当時のビスコには酵母が入っていましたが、現在はその代わりに乳酸菌が入っています。食生活の変化を受け、乳酸菌・カルシウム・ビタミンを強化しています。発売当初は硬かったビスケットもサクサクとした食感のものに変更しました」