中村と川口が仲良くなることは一切なかった
この3人の出会いは、『三国志』の中で劉備玄徳が、関羽や張飛と桃園の誓いを交わす場面のようなドラマチックで運命的なものだが、実際には三国志の3人とは少し違う、微妙な人間関係があった。
参謀役の中村に対して現場で汗をかく川口。時として冷たいとも言われた中村に対して人情家で知られた川口。入社以来、何かと比較されることとなったこの2人の間には、性格の違いもあってしばしば見えない火花が散った。中村と川口が仲良くなることは一切なかったのだ。
女性は嫉妬深いと言うが、男性の嫉妬は女性以上に根深く妥協がない。
どちらがナンバー2であるかをめぐって激しいライバル心をむき出しにするのを、幸一は敢えて見て見ぬふりをしていた。トロイカ体制というのは3人が力を合わせる図式のはずだが、幸一が中村と話すときは中村とだけ、川口と話すときは川口とだけで、3人で会議というのはまったくなかった。
当然、幸一も気を遣う。中村と2人で、あるいは川口と2人で飲みに行くことはできない。後に祇園に入り浸るようになるのは、あるいはこの2人との関係があったからかもしれない。