リニア工事中の「流出水」を担保する田代ダム案
田代ダム案が登場した理由、すなわち川勝知事の求める「全量戻し」とは何かを説明する。
JR東海は、リニア工事に伴う環境影響評価準備書で「静岡工区のリニアトンネル工事で大井川上流部の流量が毎秒2トン減少する」と予測した。
当初、毎秒2トン減少に対して、1.3トンを回復させ、残りの0.7トンは必要に応じて戻す対策をJR東海は表明した。
これに対して、「全量戻せ」との川勝知事の激しい反発が続き、2018年10月、JR東海は「原則として工事中、工事後の湧水全量を戻す」ことを公表した。この発表で、「全量戻し」に象徴される静岡のリニア問題は解決したとみてよかった。
ところが、川勝知事は「全量戻し」の“ゴールポスト”をつくり変えてしまう。当時、県リニア専門部会で議論の最中だった静岡、山梨県境付近の別の工事によって県外流出する湧水の全量まで静岡県の求める「全量戻し」に含まれるとしてしまったのだ。
断層帯が続く県境付近で、JR東海は作業員の命の安全を踏まえ、上り勾配の山梨県側から掘削すると説明。約10カ月間の工事中に、全く対策を取らなければ、最大500万トンの湧水が静岡県側から山梨県側へ流出すると推計した。
別の工事までもが「全量戻し」の対象に
「全量戻し」ということばが独り歩きし、それがJR東海との約束だとする川勝知事に押し切られるかたちで、国の有識者会議は2021年12月の中間報告に「JR東海は全量戻しを表明したことを踏まえ、県外流出量を大井川に戻す方策について、今後、関係者の納得が得られるように具体的な対策などを協議すべき」と明記してしまった。国交省鉄道局の決定的なミスだった。
つまり、JR東海は、大井川下流域の水環境への影響とは無関係だが、あまりに面倒な「全量戻し」を迫られることになったのだ。
JR東海は2022年4月、県境付近から山梨県へ流出する最大500万トンの湧水の全量戻し解決策・田代ダム案を東電RPの内諾を得て提案した。田代ダムの水は東電RPが所有する山梨県の発電所で使用されているためだ。
毎秒4.99トンの田代ダムの水利権を持つ東電RPが取水を抑制し、工事の一定期間に限って、毎秒約0.2トンを大井川にそのまま放流するものである。
ただ東電RPは、田代ダム案が工事後の水利権と無関係であることを県と流域の関係自治体に了解してもらう前提条件をJR東海に託した。
「反リニア」に徹する川勝知事が、JR東海の田代ダム案の発表以来、一貫して同案が水利権と関係があるなどと繰り返して、同案を妨害してきたことは、6月27日公開のプレジデントオンラインで詳報した。
川勝知事の“水利権関係発言”こそが、東電RPにとって協議を開始する最大のネックとなっていた。