立ち上げに携わってきた博多ターミナルビルの小池洋輝取締役営業部長はこう振り返る。
「駅があるからお客さまが来るという発想は私たちには全然なかった。博多駅の場所は知っているけれど、過去1年駅には行ったことがないという人も多かったから。だから、わざわざここに来たくなる要素というのを可能な限り盛り込んだ」
「来たくなる要素」のひとつが、9階、10階で展開される46店舗のレストラン街だ。飲食担当者が3年かけて1000食以上食べ歩き、調査と出店交渉を重ねて地元九州のみならず、仙台や東京から呼び込んだ店である。
こうした努力の結果、開業1年目の来店者数は約5400万人、1日平均約15万人に達し、総売り上げは約750億円にのぼった。
小池がそのコンセプトをこう言う。
「立地依存型ではなく立地創造型です。そうしないと九州にはお客さまは来てくれない。店だけでなく、プロモーション、イベント、情報発信とお客さまの半歩先、一歩先を常に考えてやっていく提案力がないと地方の駅ビルは残れない」
JR九州では、博多に先んじて、長崎、鹿児島の駅ビルも成功させており、現在、大分に着手している。
ちなみに小池は、そもそも鉄道そのものに対する思い入れは薄く、初めから「街づくり」に携わりたいと入社してきた人間だった。そうした人材をあえて採用するところからも自ずとJR九州の進むべき道筋は見えてくる。
11年、九州新幹線の全線開業とJR博多シティのオープンという二大事業をスタートさせたJR九州は、「つくる2016」というタイトルの中期経営計画を発表した。運輸、不動産、流通、観光、飲食といったグループ企業それぞれが目指す方向性を示し、16年度までに予定している株式上場に備えようというものである。ここでは、数値目標として、「連結売上高に占める鉄道運輸収入以外のシェアを60%超に」が掲げられた。連結総売上高も5年で10%の成長を見込んでいる。
分割民営化から四半世紀が過ぎてもなお、JR九州の改革の意識は、脈々と受け継がれている。そしてそれは、すなわち、「カライケイズム」の継承にほかならないのである。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時