[1]まずは援助者を得る
新リーダーは、社内昇進であれ、外部からであれ、それまでの評判がどうあれ、新しいポジションでの信頼を勝ち取らなくてはならない。
3COM社のCEO、ブルース・クラフリンは、98年、カリフォルニアの通信機器会社、ザ・サンタ・クララ社に在籍していたとき、すでにゆるがぬ名声を手にしていた。これに先立ってデジタル社で上級副社長を務め、それ以前の22年間は、IBM社でThink Padシリーズを市場に出すなど大成功を収めてきた。こうした輝かしい経歴をもってなお、CEOの座に就いたクラフリンは、のんびりと状況を読んでいる場合ではないと考えた。
「組織を動かすスピードについては常に議論がある。やりすぎか? 速すぎか? たいてい、答えはノーだ。何をするにせよ、もっとスピーディーにやるべきである。あらゆる失敗は、速く、そして深く動くことができなかったときに生じている」
とはいえ、基盤づくりの時間は、そうそう短縮できるものではない。だからこそ、着任前に取りかかるべきである。「着任前の時間を有効に使うことが、力強いスタートの鍵である。新しい日々の業務に忙殺される前に、部署や組織の戦略的な課題について多くを学ぶことができる」とマイケル・ワトキンスとダン・チャンパは『Right from the Start』で述べている。
この準備期間の使い方については、新しい雇用主(株主)、あるいは新しい上司と交渉してみよう。就任する会社や部署のメンバー、あるいは退職者と、その会社がどんなところであるか、どんな課題があるか、何が長所か短所か、などについて率直に話をしたらよい。そう忠告するのはシカゴを本拠地とする人材斡旋会社、ハイドリック&ストラグルズ社の副会長、ジョン・T・ガードナーである。彼は、顧客が体験するように、その企業あるいは部署をみずからが直接体験してみること、そして、上司、そのまた上の上司とも話をしてみることを勧めている。
[2]人のアドバイスを聞くことで、人的資本を蓄積する
ビル・カトゥッチは99年11月、まったく準備時間もないまま、アトランタに本拠を置くエクィファクス社の北米支社長に就任した。当時、同社は中核事業、消費者信用情報サービスの不振で、株価は急落の一途にあった。初めの3カ月、カトゥッチはバランス・スコアカードによる業績診断システムを、ベテランの秘書の協力を得て導入し、同社のガバナンスモデルを大改革した。
その後、カトゥッチは、10人の直属部下と、月あたり12時間、3つの部会に分けて同時進行で会議を行った。成長重視のビジネス開発、コスト削減、人材育成などが集中して話し合われた結果、北米支社の業績は劇的に好転し、エクィファクス社の株価も2000年第1四半期以来8期連続で上昇している。S&P500社中どの会社もこの記録に並ぶものはない、とカトゥッチは胸を張る。
これだけのことを会社幹部の交代なしに達成したカトゥッチは、「私はビジネスプランづくりを即座に任されたが、そのビジネスの中身も知らなかったので、トップチームに頼らざるをえなかった。業績の評価基準を私に教えてくれたのは彼らだ」と回想している。