生活水準が高い日本は「勉強の必要性」に迫られにくい

――日本で工場型モデルが圧倒的な地位を占めていることについて、どう思いますか。

何十年間も経済が低迷している日本こそ、工場型モデルを脱する必要がある。イノベーションによる「創造的破壊」で世界を席巻した1960年代のように再びイノベーションを起こせるよう、教育モデルを変革することが極めて重要だ。

というのも、経済が振るわないとはいえ、日本の生活水準は依然として非常に高いため、生活をより良くすべく、もっと勉強しようという「外的な必要性」に迫られないからだ。(専門知識が身に付かない)画一化された工場型一斉授業だけでは、最先端のトピックは習得しがたい。

日本の学生たちが最先端の知識の習得をエキサイティングに感じることができれば、勉強に熱が入る。その結果、画期的な発見がなされれば、世界に次の成長の波を起こすことができる。

オンラインでインタビューに応じるマイケル・ホーン氏
オンラインでインタビューに応じるマイケル・ホーン氏

理工系専攻の学生が減るとイノベーションも起こりづらい

――「破壊的イノベーション」論の提唱者として知られるハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授は、2008年の共著『教育×破壊的イノベーション(注)の中で、日本で理工系専攻の大学生が減ったことについて書いています。かつて日本では、人口がアメリカの4割であるにもかかわらず、理工系専攻の学生がアメリカの4倍に達していたが、日本経済の成長とともに、その割合が減ったと。

それは、理工系を専攻して手厚い賃金を手にし、敗戦後の貧困から抜け出たいという「外発的動機づけ」が経済の繁栄とともに薄まったからだと、同教授は指摘しています。日本企業によるイノベーションの減少は、理工系専攻の学生減と関係があるのでしょうか。

注:『教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する』(翔泳社、著者:クレイトン・クリステンセン、マイケル・ホーン、カーティス・ジョンソン、櫻井祐子・訳)

おそらく関係があるだろう。起業セクターが充実していないことのほうが大きな要因だとは思うが、理工系専攻の学生が減ったことも、イノベーションの減少につながっているのではないか。

今や人工知能(AI)で機械工学関連の仕事も自動化できるようになったが、その分、(理工系の学生や技術者など)人間の存在の重要性が増している。というのも、テクノロジーと人間が「ブレンド」し、双方の持ち場を超えて共生するほうが、単体で動くよりも、もっとクリエーティブで素晴らしい仕事を成し遂げられるからだ。

AI時代を迎え、その「ブレンド」に成功する社会が他の社会を何年分も追い抜き、飛躍していくことだろう。