娘の育て方で噛み合わなくなり追い出されてしまった

リビングでコーヒーを出してくれたyasさんは、得意そうに建築雑誌に掲載されたこの家の写真を見せてくれた。

「建築家の方にがんばってもらってね。普通の建売りとは間取りも全然違う。再婚したら毎日、パーティができる楽しい家にしたいと思って」

私がなぜ前の奥さんと離婚したか聞いていいか、と尋ねると、yasさんは驚いたようにこっちを見つめる。

「そんなこと聞かれたの初めてです。みんな、そこには触れないんですよね」

逆に私が驚いた。離婚原因はとても重要な情報だ。もしかしたらDVとかパワハラとか浮気とか虐待とか、結婚生活に支障をきたす問題があるかもしれない。もちろんそれを正直に打ち明ける人がどれぐらいいるかはわからないが、まったく触れずに新しい交際を始めるのは無理がある。

でもアプリで知り合った人たちは腫れ物に触るように、お互いそこには触れないという。もしかしたらこれまでのマッチング相手は、yasさんと真剣に交際しようと考えていなかったのか。

「元妻はずっと専業主婦で、外に出るのはあまり好きじゃなかった。人材派遣業の僕は忙しくて地方を飛び回る生活が長引いて、だんだんに会話がなくなって。娘2人の育て方も噛み合わなくなって何度か僕が長女の派手な化粧や服装を怒ったら、それから口をきかなくなった。で、それがこじれて娘と妻の両方から出ていってほしいと」

だから妻や娘を理解できず、仕事漬けで家族とのコミュニケーションから逃げていた自分への、強烈な負い目があった。

公園のベンチに座って頭を抱える男性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

崖っぷちから挽回するためにアプリで婚活を開始

妻は娘たちの家出宣言をきっかけに、長年溜まっていた不満を晴らすかのように離婚、財産分与を要求してきた。娘たちはパートで自分が育てるから財産、退職金の半分と養育費を払ってと言われ、仕方なく支払った。娘たちを路頭に放り出すわけにもいかず、yasさんが家を出た。妻子の月々の生活費も払いながらの部屋探しは辛かったと言う。

「浮気をしたわけでもないしこっちに落ち度がなくても、言われるがままに財産分与しなければならないのが辛い。次女がまだ未成年だから仕方ないけど、正直納得がいかなかった。必死に働いたのも家族のためなのに」

仕事も早期退職を迫られ崖っぷちに追い詰められたyasさんには、再婚が望みの綱に思えた。新しい家族ができればきっと救われる、相手の女性が住みたい家さえあればなんとかなる。仕事に追われて家族の気持ちがわからず、追い出された失敗を挽回したい。

小さな会社に転職すると、銀行に家を新築するための3000万円の融資を打診して新居の設計にエネルギーを注いだ。そして新居の完成を待って3つのアプリに入会し、積極的な婚活を開始した。それが豪邸見学会の裏事情だったのだ。