お金に関する「未完了」

ケース③
ある日同僚とランチに行った際、たまたま同僚がお金を持ち合わせていなかった。お会計はそれぞれ1000円ずつだったので、この場はひとまず支払ってあげることにした。

その後仕事に戻り、お互い1000円のことは忘れていた。しかし、ある時にふっと思い出す。1000円のことで、あれこれ言うのも少し気が重い。まぁ、いずれ返してもらおうということで、何となく時は過ぎていく。

金額の大小にかかわらず、お金の貸し借りは未完了を発生させやすい。

特筆すべきは、借りた側はもとより、貸した側にも未完了が発生することだ。むしろ金額が少額の場合、借りた側は忘れがちだが、貸した側が忘れることはほとんどない。お金を返してもらうか、あれは奢ったということで返す必要はない、とケリをつけるまで未完了は留まり続ける。例の如く、留まり続ける未完了は確実にエネルギーを奪っていく。

物に関する「未完了」

ケース④
パソコンのデスクトップが、ファイルだらけで見るからに散らかっている人がいる。請求書を作成するだけなのに、何処にしまわれているのかが分からず、探すだけで一苦労。

簡単な作業ですら職人芸のように複雑になってしまうケースは、請求書作成に限らずたくさんある。未完了は、物理空間だけでなく、電子空間上にも発生する。請求書を作成するたびに未完了が復活するため、こんなに簡単な作業でさえ毎回億劫に感じられる。

物理的に部屋が散らかっていることも、未完了を発生させやすい。

散らかっていることがすべて悪いわけではない。本人にとって使い勝手がよく、生活していく上で何の支障もないのであれば、特段未完了は発生しない。

しかし、クリーニングに出す予定のシャツが溜まっていくのを見るたびに、洗濯が終わった下着や靴下が山積みになっていくたびに、クローゼットの真ん中にかかっている冬物のコートが邪魔だなぁと思うたびに、未完了は少しずつ復活し、確実にエネルギーを奪う。

ソファの上に乱雑に積み重なる衣服
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
※写真はイメージです

視点を部屋から家全体に広げると、なくなりそうな歯磨き粉を「あと何回かは使える」と言って少しずつ使っていたり、シャンプー、トイレットペーパー、洗剤、ミネラルウォーターなどの消耗品が残り少ないことを知っていながらそのままにしていることも、未完了をつくり出す。毎晩、風呂に入るたびに思い出す。風呂から上がると、そのことは忘れてしまう。しかし、明日の夜、それは確実に復活する。