確かに、私が人を好きになれば、その人も私を好きになり、信頼してくれますから、なるべく多くの人を好きになるほうがいい。とはいえ10人のうち1人ぐらいは虫の好かない人物もいます。しかし、キース氏は「それでもなお」と、さらに踏み出していく。そうすることで自分が磨かれます。

よく、7つの習慣のなかでどれが一番大事かと聞かれますが、優先順位をつける必要はありません。それぞれの立場や境遇で、欠けていると感じたことを強化してもいいし、複数の習慣化を並行して進めてもいいでしょう。

私が“磨く”といっている概念と、コヴィー氏が第七の習慣とした「刃を研ぐ」は非常に近い。彼は「自然から授かった4つの側面〈肉体的側面、精神的側面、知的側面、社会・情緒的側面〉のそれぞれを再新再生させていくこと」だと書いています。そして、これらの能力をリフレッシュさせることはもちろん大切だが、この4つをバランスよく研ぐことによって、はじめて最大限の効果を発揮するともいっています。

ところで、私の最初の座右の書になったのは、20年以上も前に読んだ『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』でした。製薬会社などの経営で成功を収めた著者のキングスレイ・ウォード氏が、同じく企業家をめざす息子に、会社での人間関係や部下とのコミュニケーションなどを教えている。

その一方で、友人との付き合い方とか結婚の心がまえといった人生で遭遇する場面に言及してもいます。私は6歳で父を亡くしていますから「父とはこんなにやさしいのか、そしてこんなにも偉大なのか」と感動しました。

コヴィー氏の『7つの習慣』とウォード氏の本に共通しているのは、ビジネススキルあるいは机上の知識だけでなく人生の原則が説かれていることです。その原則とは時や場所を問わず存在し、変わらないものです。だからこそ、読む人に訴えかけてくる力が強いのではないでしょうか……。

さて、残念なことにコヴィー氏は他界されました。けれども、彼が遺した数々の名言は色褪せることはありません。幸い、私たちはそれを書籍という形で手に取ることができます。

コヴィー氏が「この本は、一度通読しただけで本棚にしまい込んでおくようなものではないと考えてほしい。なぜなら、この本は変化と成長のプロセスを通して繰り返し参考にできるように書いているからである」と記しているとおりです。折に触れて読み返せば、豊かな人生を送るための肥やしになるのではありませんか。

※すべて雑誌掲載当時

(岡村繁雄=構成 小倉和徳=撮影)
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