人事部は、2010年から人材育成プログラム「グローバル・チャレンジャーズ・プログラム」を始めた。同社の拠点がある中国やオーストラリアに半年間ほど滞在させる、いわば海外武者修行である。ところが、社内には海外に長期間滞在した経験のある人が少なかった。

これも多くの大企業に見られることである。事業戦略と人事戦略が必ずしも一致していないのだ。余剰人員などが生まれやすい一因がここにある。

だが、同社は他の大企業と比べて立て直しが早い。厳しいエントリー条件を設けず、意欲の高い社員の公募を早速行った。それには主に20代後半から30代後半の社員122人がエントリー。マーケティングを中心とした事業戦略などの研修を経て10人に絞った。このメンバーは、半年間、海外に滞在して事業戦略を立案する。

ここでも、選考のポイントは、“T字型の人材”だという。

「いまの職場で一定の成果を出して、上司から認められている人が望ましい。そこに独自の強みが加われば理想的。さらに、海外で通用するマネジメント力の資質を持っている人材であればなおいい」

このペースで育成を進め、海外で活躍できる人材を100人程度確保するのが目標。このコア人材は、将来は現地のマネジメント層になることが期待されている。

同社は、業績を評価する成果主義(管理職は部署の業績)を導入している。管理職は役割等級に応じた役割給を中心とした給与制度となっている。だが、最近はこの制度の“マイナーチェンジ”を考えているようだ。同社には、組織の一体感を大切にする社風がある。社員の定着率は高く、結束力は強い。

「現在の制度は、それ以前の年功給の要素を排除するなどの効果があった。しかし、人事異動により役割が変わることもあるため、当社では給与の変化がかえって人事の硬直化を招きかねない。むしろ、この風土の強みを生かしながら、競争力をより高めていきたい」(樋口氏)

実はこの考えこそが、日本の大企業の大半の思惑と一致している。つまり、業績に偏った評価は、日本企業の武器ともいえる“柔軟な職務構造”を、つまり、社員らのフレキシブルな動きやチームワークを破壊しかねないのだ。

この十数年、日本の企業では成果主義が浸透し、個々の実績が重視されてきた。それに伴い、一部の有識者は欧米流の職務給に進むことを提言した。しかし、歴史のある大企業はむしろそれを警戒していたといえる。

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐見利明=撮影)
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