偽造の身分証で警察をかわしながらの移動

およそ1カ月の間、一夜の宿を求めてベルリン市内をさまよったクラカウアー夫妻は、ハンス・アッカーマンというドイツ人の友人の伝手で告白教会の牧師ヴィルヘルム・ヤンナッシュと出会った。ヤンナッシュは思いつく限りの牧師仲間や信徒たちに連絡を取り、ふたりの潜伏先を探したが、引き受け手はなかなか見つからなかった。

ベルリンではすでに何千人ものユダヤ人が告白教会の信徒に匿われており、新たな潜伏者を受け入れる余裕のある者はいなかったのである。ヤンナッシュがようやく見つけた潜伏先は、ベルリンから150キロ以上離れたポンメルンであった。そこに住むシュトレッカーという牧師が、ふたりを受け入れてくれた。

3月9日、夫妻は列車で慌ただしくポンメルンに出発した。車内で頻繁に警察の巡回が行われる列車の旅はユダヤ人にとって極めて危険である。アッカーマンはマックスたちの道中を案じ、即席の偽造身分証明書を用意してくれた。それは有効期限が切れて失効したアッカーマン自身の郵便局利用のための証明書にマックスの写真を貼り付けたものだった。いかにも素人が改ざんした出来の悪い証明書だったが、何もないよりはましだった。以後クラカウアー夫妻は、終戦まで「アッカーマン」の偽名を使い続けた。

長期間同じ場所で匿い続けるのは困難を極めた

幸い列車内での検札でも身元を怪しまれることはなく、ふたりは無事ポンメルンに到着した。救援者に守られて暮らす日々は、ふたりにとって「正真正銘の療養」となった。過酷な強制労働で体重が41キロにまで激減していた妻カロリーネも、聖職者や信者たちの世話を受け、徐々に体力を回復した。夫妻は複数の救援者のもとを転々としながら、新たな生活になじんでいった。仕事も見つかった。マックスは事務職、カロリーネは事務所での賄いの仕事だった。

だが、穏やかな時間は長く続かなかった。時が経つにつれ、住民のなかにはふたりの素性を疑い、あれこれ噂する者も出てきた。ある主婦は、ふたりが食料配給券を使っているのを見たことがない、ドイツ人なら誰でももっているはずだと言いふらした。住民同士が互いを知り尽くしているような小都市で、素性を明かせない者を長期間匿い続けることはきわめて困難であった。救援者たちは手を尽くしてふたりの潜伏先を探し続けたが、その努力にも限界があった。

こうして、ポンメルンでの潜伏生活は4カ月で終わった。