そんな一村産業での経験は貴重でした。人は何のために働くのかが明確になったからです。もちろん、第一は生活のため。しかし、それ以上に自分を磨くことが重要なのだと実感しました。それからは、できるだけ困難な仕事に挑戦したいと考え始めました。

不思議なもので、そんな姿勢でいると、どんどん新しい業務が回ってきます。89年、産業資材部の水産資材課に配属され、魚網と釣り糸の流通構造を再構築したのもきわめて難しい仕事でした。卸会社を通さずに、大型量販店への直接販売に転換するものです。当然、強い抵抗を受けます。しかし、人間は困難に直面すると、思いもかけない知恵が出てきます。結果として、直販体制が確立でき、コスト削減につながりました。

半面、家庭は大変でした。一村産業に出向する前に生まれた長男は、3歳のときに自閉症と診断されました。その心労もあったのでしょう。妻は肝炎に倒れ、やがてうつ病を併発してしまいます。もちろん、私も家事を手伝い、休日は妻の見舞いも欠かしたことはありません。

そんなとき、私の心の支えになったものは、やはり仕事でした。仕事を通しての達成感があったからこそ、家族とも真正面から向き合え、苦難を乗り越えられたのだと確信しています。

ところで、仕事で自己実現をしていくためには、高い成長角度を維持することが必要です。いつもベクトルを右上に向けておく。そうすれば、角度の低い人に抜かれることは絶対にないし、差はどんどん開いていきます。

私は、人生の勝負所は50代だと思っています。20代は、わき目も振らずに一生懸命に働き、30代で実力も備わり、役職にも就く。40代にそうした経験が生きるわけですが、この時期は、疲れずに、しなやかに生きることを勧めたいと思います。なるべく部下に仕事を任せ、早く帰る。社外の人とも付き合い、本も読み、力を蓄える時期だと考えて行動してください。

こうした話を聞いても、「知る」と「わかる」のでは大きな違いが生まれます。前者は単に頭のなかにインプットしただけのこと。一方、後者の「わかる」ことを、私は「解る」だと考えています。物事を理解し、自分の行動を変えていくことです。その変化は自分を一歩高めることにつながっていきます。

人事は非情です。自分では心構えをしているつもりでも、意に沿わない辞令を渡されれば動揺は隠せません。しかし、そんなときこそ潔く受けて、自分をしっかりと磨くチャンスにするべきです。

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(岡村繁雄=構成 南雲一男、澁谷高晴、大塚一仁=撮影)