「領土をあきらめ停戦せよ」論が有害な理由

ただし、不承認主義は、第2次世界大戦後に国際秩序を再構築する際に大きな意味を持つことになった。満州国の法的存在は認められず、そもそも存在していなかったという前提で、新しい国際秩序が形成された。民族の自決権を尊重する「国連憲章の諸原則」によって、「法の支配に基づく国際秩序」が作られたのである。

不承認主義は、ウクライナの平和の枠組みにも大きく関わる。すでに述べたように、ロシアの侵略が、かつての枢軸国の侵略行為と同じ性格を持っているとみなされるからである。

「ウクライナは領土をあきらめて一刻も早く武器を置くべきだ」「(2022年の侵攻前の)2・24ラインまでとしてみてはどうか。クリミア奪還までを狙うべきではない」といった領土の線引き論が、和平に向けたアイデアとして語られるのをよく見かける。しかしそれらは机上の空論であるばかりか、無意味かつ有害ですらある。

当事者であるウクライナが(そしておそらくはロシアも)第三者による勝手な領土の線引きを受け入れる見込みは乏しい。さらに、侵略者の行動を事後追認する形で、その場限りの安易な妥協をしてしまえば、その侵略者がいずれ別の侵略行為に出る蓋然がいぜん性は高い。そもそも、2014年以降のウクライナ東部におけるロシア関連組織の侵略的行為やその他地域におけるロシアの不穏な行動に対し、国際社会が強い態度をとれなかったことが、2022年のウクライナ全面侵攻を招いたのだと言うこともできる。

侵略者に利潤を渡してはいけない

停戦は両者が疲弊した時に訪れる。その時点での線引きは、軍事情勢によって決まるだろう。もしウクライナが盛り返すことができず、ロシアがウクライナの領土の一部を占領したままの状態で停戦がなされるとしたら、どうなるだろうか。諸国は、ロシアの侵略行為を事後追認する形で、和平交渉を盛り立てるべきだろうか。

G7は、決してそのようなことはしない、と述べている。それはテロリストが凶悪な犯罪行為を取引材料にするのを認め、利潤を渡してしまうようなものだ。味を占めたテロリストは、利潤を拡大するため、再び犯罪を行うだろう。一時的と信じた安易な譲歩が、長期的で巨大な損失につながる。それが、現在の国際秩序を生んだ第2次世界大戦の教訓である。現在の国際秩序を支えることは、その契機となった教訓を裏切らないことと、密接に結びついている。