食料とエネルギー不足という「二つの山」

【手嶋】戦争は兵糧が尽きれば継続できません。具体的にいかなる条件が戦争の前途に待ち構えているのでしょうか。

【佐藤】一つは、23年の春から夏にかけてのウクライナの食糧不足です。旧ソ連圏の諸国はどこも厳しい冬に備えて食糧の備蓄が欠かせません。ウクライナも、春までの食べ物は一応あるはずですが、穀倉地帯はロシア軍に占領されている東部と南部が中心ですので、戦争の影響で穀物の収穫が十分にできなければ、戦争の遂行に影響が出てきます。ロシアによる電力インフラの破壊で電力も不足し、鉄道による物資の流通も滞っています。

【手嶋】23年中に兵糧が尽きてしまえば、確かに戦争を続けることは難しくなりますね。

【佐藤】二つ目の山場は、23年の秋から冬にかけ、欧州各国がエネルギーの不足に見舞われ、ウクライナ支援に支障がでるケースです。特に苦しいのが、開戦前までロシアの天然ガスに大きく依存してきたNATOの要のドイツです。ロシアのかわりに欧州がアメリカから輸入している天然ガスの価格は、ロシア産の4倍です。エネルギー価格の高騰に抗議する民衆のデモが各国で起きています。23年の冬は、さらに深刻なものになるでしょう。

トップの日の出霧霧に手を振る旗竿織布のドイツ国旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
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ウクライナと西側陣営は、戦況とは別に、ともに食料とエネルギーの不足に悩まされています。でも、この二つの障害をなんとか乗り切ってしまえば、戦争はだらだらと果てしなく続くかもしれない。戦争続行のシステムさえ整ってしまえば、10年に及ぶ長期戦になる可能性があると考えています。

「ウクライナ戦争税」の請求書は日本にも回ってくる

【手嶋】ウクライナが今後も戦い続けるには、財政面でアメリカなど西側陣営から継続的な支援を受けなければなりません。アメリカの連邦議会では下院の共和党強硬派を中心に「ウクライナに白紙の小切手を渡すべきでない」というアメリカ・ファーストの声が出始めています。

【佐藤】これはロシア側からの情報ですが、現在、ウクライナ政府は十分に税金を集められず、予算額の半分くらいしか充当できていません。危機的な財政状況になっています。ですから、公務員給与などは、米国が肩代わりしているんです。この情報については西側政府筋からも確認を取っています。この先も、西側諸国が「自由と民主主義のための戦い」を支持するなら、膨大な財政支援を続ける覚悟が必要でしょう。西側陣営は、それぞれの国家予算に「ウクライナ戦争税」といった別枠を設ける必要もあるかもしれません。当然、その請求書は、日本にも回ってきますよ。