ウクライナ戦争はいつまで続くのか。作家の佐藤優さんは「膠着状態が長引いて“10年戦争”になってもおかしくない。ただし、今年中に2つの条件をクリアした場合だ」という――。

※本稿は、手嶋龍一・佐藤優『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

ウクライナ東部ドネツク州ウグレダル周辺で兵士を慰問するゼレンスキー大統領(中央)(大統領府提供)
写真=AFP/時事通信フォト
ウクライナ東部ドネツク州ウグレダル周辺で兵士を慰問するゼレンスキー大統領(中央)(大統領府提供)=2023年5月23日

「10年戦争」になってもおかしくない

【手嶋】ウクライナ戦争はいつか終わります。ただ、戦いの最終盤ほど要注意です。アジア・太平洋戦争でも、1945年の8月にソ連の参戦や広島・長崎への原爆投下と幾つもの悲劇に見舞われています。

【佐藤】そうです。追い詰められたプーチンが、戦術核のボタンを押してしまう恐れがあります。この場合、正確には“地球の終わりの始まり”と言ったほうがいいかもしれません。戦術核戦争が戦略核戦争に発展する可能性があるからです。

【手嶋】ロシアが核を使えば、米軍をはじめNATOの地上軍は、その報復としてウクライナの戦域に攻め入り、ロシア本土にも攻撃を加える可能性があります。劣勢に立ったプーチン大統領は、戦略核のボタンにも手を伸ばす恐れもなしとしない。これこそウクライナ戦争の“最悪のシナリオ”と言っていいでしょう。

【佐藤】確かに最悪の事態ではありますが、その場合は比較的早く戦いにけりがつくことになります。私はこのウクライナ戦争は、膠着状態が長引いて「10年戦争」になってもおかしくはないと真面目に思っています。

【手嶋】欧州での戦争が10年の長きに及べば、その負の影響は計り知れません。

「ロシア対西側連合」の戦いに様相を変えつつある

【佐藤】アメリカとドイツは、それぞれの主力戦車「エイブラムス」と「レオパルト2」のウクライナへの供与を決めました。これに先立ちイギリスも、やはり主力戦車の「チャレンジャー2」の供与を表明しています。ロシアの脅威に晒されているポーランドは、自国が所有する「レオパルト2」などをウクライナに早々と提供し始めています。

【手嶋】これら西側陣営の戦車に座上して戦うのはウクライナの兵士ですが、外側から見ればロシアの戦車群とNATOの戦車群が激突する構図となります。

【佐藤】ロシアは、西側諸国がこの戦争に直接関与していると反発しており、「ロシア対ウクライナ」から「ロシア対西側連合」の戦いに様相を変えつつあります。

一方、2023年1月11日、ロシア軍の制服組トップ、ゲラシモフ参謀総長が、対ウクライナ戦の総司令官に就任しました。この人事は非常に大きな意味があります。ロシアは、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と称し、その矮小化に努めてきました。しかし、ゲラシモフが名実ともに作戦の指揮をとることで、ロシアという国家の総力を挙げた戦争だと意思表示をしたことになるからです。

【手嶋】現実は争いのフェーズを切り上げながら、長期戦の様相を濃くしていますね。

【佐藤】ただ、“10年戦争”は、今年中に“二つの山”を越えた場合にという条件付きです。