「ケネディにツキがあったから」核戦争にならなかった
【手嶋】米ソの戦略兵器制限交渉(SALT-I)のアメリカ代表などを務め“核の時代の語り部”と呼ばれたポール・ニッツェ、弾道ミサイルの専門家としてキューバ危機に際して緊急招集され、後に国防長官を務めたウィリアム・ペリーらがそうでした。彼らは揃って、米ロ核戦争に至らなかったのは、結局、ケネディにツキがあったからだと漏らしていたことが忘れられません。
【佐藤】別の言い方をすれば、紙一重で核戦争になっていたということですね。
【手嶋】少なくとも、米ソ双方が合理的に行動して、ゲーム理論を実践するように衝突を防いだというのは、実相から相当にかけ離れているんだと思います。
【佐藤】核を持つ相手が何を考えているのか。次にどう出てくるのか。先が読めない局面で合理的に、的確に行動するのは至難の業です。キューバ危機も、アメリカのU2偵察機がソ連軍に撃墜され、搭乗員が死亡していれば、局面は一変した可能性がある。あるいは、キューバの封鎖海域に近づいたソ連の貨物船が、命令に従わず米軍のラインを強行突破しようとすれば、どうなっていたことか。
人類はいまも究極の“核のジレンマ”のなかにいる
【手嶋】ホワイトハウスとクレムリンの間では、一種のゲームが成立していたとしても、キューバのフィデル・カストロが抗った可能性もあり、その点でも、運に恵まれて、核戦争が回避されたというのが、当事者たちの実感だったのでしょう。
【佐藤】いつ爆発してもおかしくないダイナマイトの上にいるのは、キューバ危機でもウクライナ戦争でも、本質的には変わりません。人類はいまも究極の“核のジレンマ”のなかにいる、そう考えるべきなのでしょう。
【手嶋】ウクライナは、国家の大義を貫くため、ロシアに奪われたすべての領土を奪還するまで戦い続ける――核の時代の真っただ中に我々が身を置いていないなら、それを支持することもあり得ると思います。しかし、戦争は錯誤の連続です。戦闘は一刻も早く止めなければと繰り返し言っておきたいと思います。