経口中絶薬でも最初は入院が条件となる見込み
また、経口中絶薬を日本で導入する場合、中絶が完了したことを確認するまで院内待機が必要となり、入院が条件となる見込みだ。そもそも、現在の日本の法律(刑法堕胎罪と母体保護法)では、自宅で経口避妊薬を使うと犯罪となる。
海外では、処方された経口中絶薬を家で服用できたり、オンラインによる診察で処方できたりする国もあるが、内診や経腟エコーなしでの服薬にはリスクがある。
「そもそも、海外の多くの国では医療へのアクセスが悪く、しかも子宮や卵巣の状態を細かく診ることのできる経腟エコーがほとんど行われていません。そのため、オンライン診療で経口中絶薬を処方することが多いのです。でも、子宮外妊娠の場合に経口中絶薬を飲むと、例えば卵管が破裂するなどのリスクがあります。処方の前に、医師の診断が必要です」(宋さん)
さらに家で服用して重篤な副作用が起きた場合、救急車を呼んだり、緊急で対応してくれる病院を探す必要がある。しかし、昨今、産婦人科は激減している。
「大量出血などの重篤な副作用が起きた時の不安やリスクを考えると、最初から入院するというほうが現実的です。入院していれば、何かあった時にはナースコールを使えますし、何かあったらお医者さんが診てくれるほうが安心という人も多いのではないでしょうか」(宋さん)
次に求めるべきは「配偶者同意の撤廃」ではないか
経口中絶薬の導入にあたり、悪用されるリスクを懸念する声もある。実際に国内でも、妊娠した交際女性に国内未承認の中絶薬を飲ませた男性が不同意堕胎未遂の疑いで逮捕されるという事件も発生している。
「入院して処方される場合は悪用のリスクはきわめて低いですが、今後オンライン診療で処方されたりと規制が緩む日がくる可能性はあります。また、正規ルート以外で、適用外使用目的で平行輸入する場合もあります。ただ、悪用されるリスクがあるから承認されるべきではないという話ではなく、人の生命に関わる薬なので悪用を想定したうえで対策を考える必要があります」(宋さん)
また、日本では母体保護法により中絶する際、配偶者の同意が必要だ。DVなどで婚姻関係が事実上破綻し、同意を得ることが困難な場合に限って配偶者の同意は不要だが、中絶に配偶者同意が法的に必要なのは世界で日本を含む11カ国のみ。経口中絶薬も、服用には原則として配偶者の同意が必要になる見通しだ。
「経口中絶薬を入院して飲めるようになったあと、私たちが求めるべき権利は、オンラインで処方できるようにするとか、産婦人科医を受診しなくても処方できるようにする、ということよりも、配偶者同意の撤廃ではないでしょうか。女性が中絶したいと思ったら、本人の判断で中絶できるようにする。配偶者同意の撤廃を求める声は高まっていると思います」(宋さん)
1995年生まれ。ライター。地方の貧困家庭で育つ。“無い物にされる痛みに想像力を”をモットーに弱者の声を可視化するために取材・執筆活動を行う。著書に『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)がある。