ハッシュタグ「#中絶薬が10万円はありえない」
もう一つ、気になるのが経口中絶薬の価格だ。日本産婦人科医会は「薬の価格はおよそ5万円とみられ、診察料などと合わせると10万円程度になることが予想される」とした。このことが報道され、ツイッターでは「#中絶薬が10万円はありえない」というハッシュタグが広がり、波紋を呼んだ。
「患者さんの視点で10万円が高いというのは、その通りだと思います。ただ、海外では1000円なのにとか、製薬会社や産婦人科医がぼったくっているというのは違います。海外でも結構お金はかかるんです」(宋さん)
経口中絶薬による中絶の価格が高くなるのは、製薬会社が薬の開発や製造、申請などをするにも、産婦人科が診察や管理などを適切に行うにもお金(人件費や設備投資等)や時間がかかるからだ。
実際、経口中絶薬による中絶の費用は、アメリカで10万円程度、イギリスでも7万円、フランスでも4万円程度と、海外でも決して安くはなく、本人の負担は少ないという仕組みだ。諸外国では国から助成が行われることによって、自己負担額の軽減が実現している。イギリスやフランスでは国の保険によって個人の負担はなく、ドイツでは低所得者には補助がある。
必ずしも保険適用にすればいいとは限らない
一方、現在、手術による人工妊娠中絶も日本では10万~15万円くらいかかるのが実情だ。全ての人のリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を守るため、社会的にハイリスクの人や性暴力の被害に遭った人を守るためにも、アクセスをよくすることは必要だ。宋さんも「費用面の改善は絶対に必要でしょう」と言う。ただし、自己負担を減らすために「保険適用にすべきだ」という声があるが、その選択には問題があるかもしれない。
「自己負担額を減らす仕組みとして、保険適用がベストなのかどうかというのは、もっと議論が必要です。まず、一律で3割負担となると、人によって金額の重さは全然違い、やはり払えないという人もいるでしょう。また保険適用となってもあまりに点数が低ければ、対応できない産婦人科も出てくることが考えられます」(宋さん)
となると、国が公費で全額または一部を負担することにより、次世代のためにリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を守っていくことが必要なのかもしれない。宋さんは、「公的費用でいくらまでは負担する、その中で中絶できる病院を探して行ってもらうという制度のほうが、メッセージ性は高いのではないでしょうか」と話す。