新陳代謝の激しい街で生き残った秘訣は原価率だった

ただ、成長していくにつれて、私も「どうやら大将のいっていることには一理ありそうだぞ」と思うようになりました。

というのも、吉祥寺は、新しいお店ができては消えてゆく、いわゆる新陳代謝のペースが早い街です。

その街の変化を見ていると、大将の焼き鳥屋のように長年に渡って繁盛しているお店がある一方で、新規開店して味も美味しく価格も安いのに、なぜか撤退してしまうお店があるという光景に何度も出会うのです。

それは飲食店に限らず、アパレルや雑貨店など、どんな業種でも見受けられたと記憶しています。

では、生き残るお店と消えるお店の何が違うのか?

もちろん個別のお店によって様々な原因があるのでしょうが、大きな傾向としては、原価率が低い商売ほど生き残りやすいと感じました。やはり、大将のいっていることは正しかったのです。

原価率の高い業界では、人気店でも生き残るのは難しい

例えば、私はフリーター時代に、吉祥寺ロンロン(現アトレ吉祥寺)内にあったテクテックというスニーカーショップで働いていたことがあります。当時、業界ではかなりの有名店だったので、古くからのスニーカーマニアの方であれば懐かしく感じるかもしれませんね。

靴棚のスニーカー
写真=iStock.com/O_Lypa
※写真はイメージです

しかし、そんな有名店でも、内情は決して楽ではありませんでした(私はしょせんアルバイトだったので、経営の細かいところまでは知るよしもありませんが……)。

というのも、スニーカーの仕入れ原価は5割がほとんどなのです。少し強気なメーカーだと6割ということもありました。大将の焼き鳥屋と比べると、ずいぶん高い原価率だなと驚いた記憶があります。

しかも、スニーカーには色違いやサイズ展開もあるので、1つのモデルについて14〜15足の在庫が必要になります。在庫がないと売ることができませんから仕入れるしかないのですが、とはいえデザインやサイズの売れ方にムラがありますし、どうしても大量の売れ残りが出るのです。

そうなると、在庫品の保管場所にもお金がかかりますし、スニーカーには流行もあるので、最後はセールで大幅に割り引きしてでも売るしかありません。これがさらに原価率を引き上げます。

当時はスニーカーブームでしたから何とか成立していましたが、なかなか長続きは難しい商売だろうな、と感じたものです。