機能が向上すると、むしろ血流量は減少する

脳の機能が向上すると逆に血流量が減ること、正確にいえば、血流が増大する範囲が狭くなることがわかっている。それまでできなかったこと、あるいは不得意であったことができるようになると、つまりそのことに関わる脳の機能が向上すると、脳の広い範囲で増えていた血流が、次第に狭い範囲でのみ増えるようになるのである。

たとえば、筋電義手という身体補綴ほてつ装置を動かす学習をした際の脳活動を測定した研究がある。この装置は、腕の肩から先あるいは肘から先を失った人が、残された肩あるいは肘の筋肉が出す電気信号(筋電信号)を使い、腕と指の代わりになる義手を動かすというシステムである。

横井浩史教授(電気通信大学)の実験によると、この筋電義手を装着した当初は、なかなか思うように義手が動いてくれなかったが、そのときの脳の血流量をfMRIで計測すると、運動野だけでなく脳全体で血流量が増大していた。しかし、数週間にわたり動かし方を学習し、思い通りに義手を動かせるようになったとき、脳の血流量は運動野を中心とした非常に狭い範囲でのみ増大していたのである。

また、酒井邦嘉教授(東京大学)の実験によると、英語が不得意な学生は、英語を話そうとしているとき、言語に関わる左半球の広い範囲で血流が増大していた。しかし、英語をしっかり学習し熟達した学生は、文法処理に関わるとされている前頭葉の狭い部分だけで血流の増大が見られたという。

研究者の解説は必ずしも正しいとは限らない

脳の血流の増大はニューロン集団の発火の増大を意味している。そのため、血流が増える範囲が狭くなるということは、学習によりある機能が向上するにつれ、より少ないニューロンの集団でその機能を実現するようになることを意味しているが、たしかにそれは理にかなっている。

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これは、学習によりニューロン集団はより同期して発火するようになり、この同期発火がより高精度で、つまりより正確なタイミングで生じるようになれば、より少数のニューロンが発火するだけで信号をより確実に伝えるようになるからである。このようなメカニズムが、脳の機能が向上するにつれ血流増大の範囲が狭くなるという現象に関わっているのであろう。

fMRIで測定できる脳の血流量については、その増大が意味することについて、研究者の解説が必ずしも正しいとは限らないことに、十分注意する必要がある。