「バカ」ではなく「お利口」になり失われるもの

「あれ、なんだろう?」

まず、何かが目に入るとそう反応します。そうすると「面白そうだ」「見てみよう」「触ってみよう」「蹴飛ばしてみよう」と脳が指令を出す。そうやって男の子は無意識のうちに脳に新しい情報を書き込んでいるのではないか……。そんな風に感じます。脳の中でそういう一連の反応が起きているように私には思えます。

だから、そのネタ探しのために、落ち着きがなく、いつもキョロキョロしているのではないでしょうか。

ところが、成長するにつれて、こうした反応の機会は減ります。もちろん、中学、高校、大学、社会人とそれぞれのフェーズでそれなりに「エッ? ワー! ヘー」はあるのでしょうが、新しい情報の書き込みへの情熱が失せていきます。ましてや、中高年にもなれば、その「症状」はさらに進むでしょう。

乱暴な言い方になりますが「バカ」ではなく「お利口」にはなるけれど、好奇心もなくなってしまっているわけです。けれども、ヘタにお利口になるよりも、バカでも好奇心が健在であるほうが、人生は愉快なはずです。

好奇心こそ、新しい発見、新しい自分の原動力だからです。場合によっては、「ウソから出たまこと」ならぬ「バカから出たまこと」の可能性もあります。

ちなみに「待ち合わせ時間の1時間前に」は私のモットーです。

たとえば誰かと6時に待ち合わせる場合、その場所には5時に行くのです。そして周辺をゆっくり歩きます。すると、知らない脇道に逸れただけで突然、景色が変わったり、予想もしなかったような店に出会ったりすることがあります。これだけで、小さな刺激、小さな驚きを味わえます。

日ごろの生活の中でも、最寄り駅のひとつ先の駅で降りて歩いてみる、快速をやめて各駅停車に乗ってみる、いつも電車ならバスで帰ってみる、タクシーで1000円の距離を歩いてみる……。自分のルーティンをちょっとやめるだけで、「エッ? ワー! ヘー」は生まれるはずです。

「人間、好奇心がなくなったら、おしまいだ」

作家の遠藤周作さんは、そうおっしゃっていたそうです。「おしまい」よりも「バカ」のほうが人生は愉しく、快適です。

「申しわけないけど、教えてもらえないかな」と言えるか

「俺はアナログで結構」

そんな主張をする人は、現在ではさすがに少数派だとは思いますが、50代、60代はもちろんのこと、70代以上の世代でも可能なかぎりITのスキルを高めておくべきです。

オンラインで日本のカップルのクローズアップ
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです

では、どうやってそれを克服すればいいのでしょうか。

簡単なことです。得意にしている若い人に尋ねればいいのです。ところが、「言うは易く行うは難し」のたとえ通り、これができない中高年が多いようです。

知人女性から聞いた話があります。ある会社で実際にあった話です。

「部長、クライアントから私にもCCでメールが送られてきているんですが、写真はギガファイル便です。私は外出してしまうので、ダウンロードして、社内サーバーにアップお願いします。それから、プリントアウトして、今日中に常務に渡しておいていただけますか」

新人社員のリクエストに対して、IT恐怖症の部長はこう答えます。

「えっ、えっ……。う、う、うん……」

そして、戻ってきた新人社員に尋ねられます。

「部長、やっておいていただけましたよね?」

部長はただ無言でうつむいていたそうです。

彼女は「うんって、おっしゃったじゃないですか」という言葉を飲み込んで、パソコンに向かったそうです。「こりゃ、ダメだ」と隣の同僚に耳打ちしながら……。

「申しわけないけど、教えてもらえないかな」

若い人に対して、これが素直にいえない中高年は少なくありません。