日本の半導体産業は今後どうなるのか。半導体産業コンサルタントの湯之上隆さんは「私は2021年6月1日の衆議院の意見陳述で、日本半導体産業が凋落したのは『診断が間違っていたため、その処方箋も奏功しなかった』と論じた。政府と経産省は、また同じ間違いを犯そうとしている」という――。(第2回)

※本稿は、湯之上隆『半導体有事』(文春新書)の一部を再編集したものです。

半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループ(G)などが共同で建設を進めているJASМの半導体製造工場=2022年10月26日、熊本県菊陽町
写真=時事通信フォト
半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループ(G)などが共同で建設を進めているJASМの半導体製造工場=2022年10月26日、熊本県菊陽町

TSMC熊本工場への補助金は効果があるのか

経産省は、今のままでは日本半導体産業のシェアが2030年に0%になってしまうという危機感を持った。そこで、シェアの低下を止め、上昇に転じさせるための政策を立案した。

その目玉が、半導体工場の新増設に補助金を投入する改正法だった。この改正法は、2021年12月20日、参議院本会議で与党などの賛成多数で可決し、成立した。その改正法により、補助金は国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に設置する基金から複数年にまたがって拠出する。その基金は、2021年度補正予算でまず6170億円を計上した。

この改正法による補助金として、TSMC熊本工場に4760億円、マイクロン広島工場に465億円、キオクシア四日市工場&北上工場に929億円が支出されることになった。

ところが、すでに分析した通り、補助金を投入しても、TSMC熊本工場の月産5.5万枚の20~30%しか日本のシェアには貢献できない。また、マイクロン広島工場の貢献度は0%であり、さらにキオクシア四日市工場&北上工場では、その50%しか日本のシェアの増大に貢献しない。

したがって、経産省が立案した政策に従って、日本政府が補助金をTSMC熊本工場、マイクロン広島工場、キオクシア四日市工場&北上工場に投入しても、日本半導体全体でのシェアの向上は、数%あるかないかだろう。