「半導体産業が再興する」は夢物語でしかない

これで、日本政府や経産省が唱えるところの「経済安全保障を担保し、半導体のサプライチェーンを強靭化」したことになるのか? 前工程だけでなく、マスク製造、後工程、最終製品の組立も日本国内で行わなければ、「経済安全保障」を担保したことにはならないのではないのか?

湯之上隆『半導体有事』(文春新書)
湯之上隆『半導体有事』(文春新書)

せめて、OSATのASE等の後工程の工場を日本に誘致しなければ、経済安全保障は担保されない。なぜ、経産省はこうした中途半端な政策しか立案できないのだろうか?

このようにTSMCの工場を熊本に誘致しても、日本の経済安全保障はまったく担保されないし、サプライチェーンも強靭化されない。

TSMCが正式に熊本に工場をつくることを決定し、経産省も4760億円もの助成をすることになった(複数年の支援をするという話もある)。世間ではこれをきっかけに、日本半導体産業が再興するという話で持ちきりである。日本人とは、なんとまあ、おめでたいことだろうか。

TSMCの熊本工場に税金を投入するのは馬鹿げている

TSMCはボランティアではないし、慈善事業団体でもない。れっきとした営利企業である。その事業はすべて、営利目的のものである。日本の熊本に月産5.5万枚の工場をつくり、世界的に不足している28~12nmを大量生産し、世界中に売りまくるわけである。熊本で生産したロジック半導体の利益は、当然ながらTSMCの懐に入る。

このような営利企業であるTSMCのために、日本の税金を使うのは、はっきり言って間違っている。TSMCが28~12nmの工場を熊本に建設したいのなら、自力でやってもらえばいいのである。ソニーやデンソーが協力したいのなら、すればいい。しかし、土地、インフラ、助成金など、日本の税金を使うことは許せない。いち納税者として、断固、異議を唱えたい。

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