サプライチェーンからコミュニケーションバリューチェーンへ
日本企業の経営者は前述の通り、「よい商品を作り、それを営業する」ことには最大限の力を注いできている。つまり生産管理と営業には人材と金を投入し、それを支えるIT投資もしてきている。当然ながら組織もその前提で作られているところが多い。日本企業の強みであるコミュニケーションと言えば工場での従業員同士のコミュニケーションであり、その結果が工場の品質向上と効率向上につながり圧倒的な力を持つことになったのはTOYOTAの躍進が証明している。情報システム部門の関心も当然物を作り、販売するという部分を管理・サポートする基幹システムこそが重要であった。特にサプライチェーンマネジメントは企業における在庫という悪を極力少なくするために劇的な高度化をもたらした。川下の販売状況を川上までリアルタイムに販売状況を共有することで、見込み生産での欠品や余剰を限りなく減らすことが実現できたのである。デルコンピューターの脅威の躍進もWebを通じたダイレクト販売とBTOによりリアルタイムに販売状況を生産ラインと部品調達部署で共有することで業界最短の在庫を実現した強固なサプライチェーンを構築したことにあった。しかもデルの売りは顧客とダイレクトなコミュニケーションによるニーズの変化に迅速に対応しているということであった。しかし、やはりデルのモデルはサプライチェーンマネジメントの延長でしかなかったと言える。なぜならばそこで扱っていたものは受注データをベースにしたものであり、本質的な顧客とのコミュニケーション情報では無いからである。確かに在庫リスクを減らすことが財務上も重要であることに代わりは無いが、それは同じ価値を提供している企業間の差別化にはなるが、本質的な企業の競争力にはならない。デルは顧客がサーバーや汎用デスクトップで少しでも安く性能のいいものを求めている時代は同業他社に対して圧倒的な力を持っていたが、顧客のPCに求めるニーズが多様化し、PCの中心がノートになりニーズもデザイン性からミニノートなど多様性が高まる中で、そのニーズを捉えきれなくなり、あれほどまでに賞賛されたBTOモデルを捨ててチャネル販売重視へ戦略転換を余儀なくされた。
http://diamond.jp/articles/-/13322
→デルの戦略転換の解説コラム
http://news.mynavi.jp/column/ittrend/028/index.html
このケースは大事なことを教えてくれる「受注データ」はコミュニケーションのごくごく一部でしかないということである。POSデータもあくまで販売データに過ぎない。現在求められている顧客との本質的なコミュニケーションは「顧客の興味や関心、課題、ライフスタイルを理解し、企業の理念やブランドを理解してもらい、適切な商品の性能、機能、さらに作った人達の思いまでを伝え、すでに使っている人達がどう思っているかを吸い上げてさらにフィードバックする」までのコミュニケーションバリューチェーン全部をトータルにマネジメントすることに他ならない。これはサプライチェーンマネジメントではまったく除外されていた部分であるといえるだろう。