ブドウ糖に代わるクリーンなエネルギー
ブドウ糖とは異なり、ケトンは「クリーンに燃える」燃料と考えられている。なぜなら、ブドウ糖より少ない代謝プロセスで、取り込んだ酸素からより多くのエネルギーをつくり、その結果、エネルギー変換時に生成されるゾンビ分子(フリーラジカル)が少なくなるためだ。また、フリーラジカルを中和する力が強いグルタチオンという天然の抗酸化物質を使える機会も大幅に増える。つまりケトンを利用することで、アンチエイジングが半額セールの状態になる。
ケトンの恩恵は、そこで終わらない。ケトンが脳にあると、BDNFを増産する遺伝子経路が活性化されることが研究で示されている。BDNFは気分を改善したり、学習能力や可塑性を促したり、神経細胞を日常的な損傷から守ったりといった、いわば脳の「成長ホルモン」だ。ケトンは脳への血液の供給にも一役買い、39パーセントも血流を増やすという。
炭水化物をふんだんに摂る「普通の」西洋型の食生活において、この有益なケトンの合成は、ほぼ抑えられた状態にある。なぜなら、高炭水化物食によって膵臓のインスリン分泌が刺激され、インスリンが増えるたびにケトンの合成が止まるからだ。
一方、絶食や、炭水化物を極端に減らした食生活によってインスリンが抑えられると、ケトンの合成が誘発される。
体内でケトンを合成する方法
飢餓の状態で皮膚の下や胴まわりの脂肪組織が分解されると、脂肪酸が血液中に流れだし、肝臓によって「ケトン体」、もしくはシンプルに「ケトン」と呼ばれる燃料に変換される。ケトンは脳細胞に簡単に取り込まれ、必要なエネルギーを最大60パーセントまで補給できる。
農耕生活を始める前の祖先たちは、食料供給の見通しが立たなかったため、定期的に絶食を経験していた。彼らの脳(と私たちが受け継いだ脳)は、この不確実性のなかで鍛えられ、食べる時期と絶食の時期を振り子のように繰り返す生活に見事に適応した。
食料の摂取を周期的に制限することによって、身体は生理学的な適応を強いられ、ケトンを合成する。断食(ファスティング)の方法はいろいろあるので、好きなものを選ぶといいだろう。お勧めは、最後に栄養を取り込んでから16時間、何も食べない状態を維持する方法だ。これは一般的に普及している「16:8」メソッドというファスティングだ(つまり16時間は何も食べないが、残りの8時間は食べてもいいというものだ)。
このファスティングは毎日行うことができて、ファスティングの多くの恩恵が得られる。具体的にはインスリンの分泌量が減り、蓄えられた脂肪の分解が促される(女性には16時間ではなく、12~14時間から始めることを勧めている。女性のホルモンのシステムは、食料難のシグナルに対して敏感に反応する可能性があるためだ。たとえば絶食時間が長くなると、生殖能力に悪影響がおよびかねない)。