日本でセクターカップリングが進まない理由
ただし、温水導管は、都市ガス導管や水素導管に比べれば、敷設は容易である。世界中の寒冷地の都市ではセントラルヒーティングが普及しており、そこでは温水導管が広く使われている。セントラルヒーティングがほとんど無い点で、日本は、国際的に見て例外的な存在である。2050年までに大都市だけでなく地方も含めて温水導管を敷設することは、それほど困難なことではない。
筆者は、日本でセクターカップリングが進まないのには、別の理由があると考えている。担い手がいないのである。熱供給に精通している都市ガス会社は、自らの事業基盤が失われることをおそれて、セクターカップリングにきわめて消極的である。現にデンマークでは、セクターカップリングが進展したのにともない、熱供給の担い手は、民間のガス会社から自治体が主宰する第3セクターへ転換してしまった。
都市ガス会社が消極的であるならば、電力会社にビジネスチャンスが生じるはずだが、そのような兆しはほとんど見られない。日本の電力会社の多くは「電化すれば、それで良し」と考えているため、絶望的なほど熱利用に疎いのである。
秘策であるセクターカップリングが日本で日の目を見るためには、新たな担い手の登場を待つしかないのである。今後も、国際的な天然ガス価格の変動に翻弄され続けるのか、デンマークのように独自の方策を打ち出すのか、日本のエネルギー政策の方針を決める時期に来ているのではないだろうか。