作った電気を熱に変え、温水で蓄える
新型コロナウイルスのパンデミックが発生する直前の18年と19年、筆者は、セクターカップリングの調査のため、デンマークを訪れたことがある。セクターカップリングとは、電気や熱というエネルギー間の垣根を取り除いて最適解を導き出そうとする考え方であり、デンマークでは、より端的に「パワー・トゥー・ヒート」という表現がよく使われる。
デンマークのエネルギー政策を特徴づける「パワー・トゥー・ヒート」とは、「電気から熱へ」あるいは「電気を熱の形で蓄える」という意味だが、これによって、柔軟でかつ堅固なエネルギー供給体制の構築が可能になる。
電気が足りないときないし電気の市場価格が高いとき(多くは冬季)には、風力だけでなくバイオマスも太陽(光)も電力生産に充てる。一方、電気が余っているとき(例えば夏季)には、バイオマスと太陽(熱)を使って温水を作り、それを貯蔵する。発電にしか向かない風力も、「出力制御」などというもったいないことはしないで、思い切り電気を作り、それで水を温めて熱(温水)に変えて蓄える。
夏場に巨大な魔法瓶状のタンクや断熱措置を講じたプール状の貯湯池に蓄えられた約80度の温水は、冬場になると約50度まで温度は下がるものの、全土に張り巡らされた導管を通じて、デンマーク中の家庭やビル、店舗、工場等に供給される。
「パワー・トゥー・ヒート」のねらいは、発電の際に熱などの形で失われるエネルギーを活用し、エネルギーコストを全体的に低下させようとする点にある。
日本と同じ「原油依存国」の方針転換
デンマークでは、地域熱供給(DH:District Heating)が広く普及している。同国におけるDHの歴史は19世紀末にさかのぼるが、200度以上(供給温度、以下同様)の蒸気による第1世代(~1930年ごろ)、100度以上の加圧高温水による第2世代(~1980年ごろ)、100度以下の高温水による第3世代(~2020年ごろ)を経て、現在は50度以下の低温水による第4世代に移行しつつある。
時代の進展とともに供給温度が低下しているが、その理由は、①送配熱によるロスを縮小できる、②より多くの種類の排熱・余熱を利用することができる、という2点にある。
1970年代に石油危機が生じた時、デンマークは、日本と同様に、中東原油への依存度が高く、エネルギー自給率はきわめて低かった。デンマーク政府は、石油から中東依存度が低い石炭への転換を急ぐ一方、新設する火力発電所はすべてCHP(Combined Heat and Power:熱電併給、日本では「コジェネレーション」と呼ばれることが多い)とする方針をとった。セクターカップリングないしパワー・トゥー・ヒートの導入である。