「もうひと踏ん張り」を引き出す押しボタン
リーダーには、「テクニカル」「コンセプチュアル」「ヒューマン」という3つのスキルが求められます。このうちテクニカルスキルは各々の専門分野で必要になるスキル。一方、部下が壁にぶつかって思い悩んでいるときにぜひ発揮してほしいのがコンセプチュアルスキルとヒューマンスキルです。
コンセプチュアルスキルは、状況を客観的、かつ的確に判断して部下に明確な方針を示す技術です。マネジメントというと、部下にハシゴを上手にのぼらせることばかりを考えがちですが、それ以前に、ハシゴを正しい場所にかけてあげなくてはダメ。方針が不明瞭だったり、二転三転していたりでは、部下は迷ってしまい力を発揮できません。まずは部下が目指すべき道を、現場のリーダーが指し示すべきです。
そのうえで部下とのコミュニケーションを深め、動機付けしてあげるときに必要になるのがヒューマンスキルです。このスキルが足りないリーダーは、たんに部下に言葉をかけただけで部下のやる気を引き出せると勘違いしていますが、それは大間違い。言葉は「話して聞かせるだけでなく理解させる」段階からさらに進んで「理解させるだけでなく感じさせる」というレベルに達してこそ、はじめて部下の心を動かせるのです。
たとえば部下が予算を達成できずに思い悩んでいるとき「気合を入れて頑張れ」というありきたりの励ましをしても右から左に聞き流されるだけ。おそらく事態は何も変わらないでしょう。
私なら「小さな戦いに勝ち続けなければ物事は大成しない。小さくて見逃している仕事がまだ残っているんじゃないか?」とか「百尺竿頭一歩進めよ。これは努力をし尽くしたうえで、さらにその先に行く努力のことだ」といって励まします。同じ意味のことを伝えるのにも、このように言い回しを工夫すると、相手に深い感動を与え、アドバイスに込められた思いを感じとる助けになるはずです。リーダーの力量は、こうした「心で感じる」言葉を自分の引き出しにどれだけ準備しておけるかで決まります。
じつは「百尺竿頭一歩進めよ」という格言も、学生のころに奥多摩の禅寺で住職から教えていただいたもの。将来が見えずに悩んでいた私は、これを聞いてパッと迷いがなくなった。それ以来、この言葉を自分の引き出しに収め、部下を叱咤激励するときに使っているのです。