読書中や会話中に気になった言葉や自分で思いついたフレーズは、その場ですぐ手帳に書き留めるといい。どんなに含蓄のある言葉も、聞いただけではなかなか使いこなせないもの。しかし、手を使って書くことで言葉の意味が確かになり、手の内に入るのです。ただ、せっかく自分のものにした言葉も「使いどき」を間違えると効果が半減してしまうので要注意。投げかける言葉は、部下の心理状態をよく見極めてから選ばなくてはいけません。

部下に壁を乗り越えさせるには
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部下に壁を乗り越えさせるには

何もかも嫌になって会社を辞めたがっているとき、本人はやる気になっているがまだ結果が出ていないときなど、部下が直面する仕事の壁によって有効な言葉は違うはず。それをよく見極めて、最適な言葉を選ぶのもリーダーに求められるスキルの一つです。たとえば現状に満足してチャレンジ精神を失っている部下に対しては、競争相手を意識させるようなアドバイスをすべきです。「おまえの同期はこうやって努力しているぞ」「ライバル社はこんな戦略で頑張っている」と声をかけることで刺激を与えるのです。

一方、具体的な悩みを抱えてスランプに陥っている部下には、助言よりも話を聞いてあげることが重要です。もちろんこのときにも質問の投げかけ方に工夫をします。たとえば「職場には満足しているのか?」というように、相手がイエス、ノーで答えられる質問では、本音を漏らしてくれません。「職場をこう変えたいのだが、キミの意見を聞かせてくれ」というように、部下が「じつは……」と心を打ち明けたくなる問いかけをすべき。

「心で感じる」言葉をどれだけ準備できるか

「心で感じる」言葉をどれだけ準備できるか

また、私のモットーに「経営は浸透である」というのがあります。経営ビジョンを示す言葉を投げかけるときは、それが部下に浸透して行動が変わるまで、何度も繰り返すことが大切です。

これは現場レベルでもいえること。以前、成績の悪い営業所に、新しい所長を赴任させたことがあります。所長は営業所を覆っていた暗い雰囲気を払拭しようと、毎朝、おはようと声をかけ始めました。ところが、部下は誰もあいさつを返さない。普通なら別の方法を模索したくなるところです。しかし、所長は諦めずにあいさつを続けたところ、次第に返事が返ってきて、1週間後には部下同士であいさつを交わすまでになった。もちろんその営業所に活気が戻り、成績が回復したことは言うまでもありません。

最後に頼りになるのはやはりヒューマンスキル、人間としての器だと思います。仕事上のアドバイスにとどまらず、人生の意味や人間の幸せについて部下と真正面から語りあう。それができる上司の言葉はどんなものであれ部下の心に深く染み入るものです。才能は天から与えられるものですが、人格は日ごろの行動の総和であり、普段の心がけしだいで誰でも磨くことができるのです。

(村上 敬=構成 相澤 正=撮影)