原因はとことん叩け、弱った部下は包み込め

<strong>オービック会長兼社長 野田順弘<br></strong>1938年生まれ。関西大学経済学部卒業。57年、近畿日本鉄道百貨店部(現・近鉄百貨店)入社。昼は百貨店で仕事をしながら大学は夜間部に通った。68年、オービックを設立後、創業社長として、同社を率いる。03年に会長に退くも06年より会長と社長を兼務。
オービック会長兼社長 野田順弘
1938年生まれ。関西大学経済学部卒業。57年、近畿日本鉄道百貨店部(現・近鉄百貨店)入社。昼は百貨店で仕事をしながら大学は夜間部に通った。68年、オービックを設立後、創業社長として、同社を率いる。03年に会長に退くも06年より会長と社長を兼務。

部下が仕事で失敗をしたとき、よかれと思って懇切丁寧にアドバイスをするリーダーは多いはず。しかし、それは逆効果になる恐れがある。失敗体験をした部下は、心理的に委縮している状態。そこに助言を与えたところで、部下の心には届いていない可能性が高いのです。

弊社の創業5年で、南海ホークス(現ソフトバンク)の鶴岡一人元監督に講演をお願いしたことがあります。鶴岡さんはエースの杉浦忠投手が失投して試合に負けたとき、当日には叱らなかった。というのも負けた直後は心が閉じていて、負けん気の強いエースにあれこれアドバイスをしても素直に聞いてもらえないからです。そこで鶴岡さんが心がけていたのは、杉浦投手が試合で勝つまで待つことでした。成功体験で気分が良くなっているところで「この前の試合で打たれたのは、あれがいけなかったんじゃないか」と試合を振り返ると、相手も素直に耳を傾け、さらに練習に励んだそうです。

部下への助言もこれと同じです。失敗したときに細かい指導をしても、さらに自信を失わせてしまったり、曲解されて反発心を生んだりするだけ。アドバイスは、部下が成功を体験して心を開いているタイミングが効果的なのです。

部下が成功を体験するまで待つというのは、相手に自分で自分の課題を気付かせるという意味合いもあります。上司が手とり足とり教えて指導しても、それでは部下の成長につながりません。部下が失敗をしたら、原因がわかっていてもあえて具体的に指摘せずにおくのです。「うまくいかなかった原因を自分で考え、次にまた頑張りなさい」と声をかければ十分。成功したときに、その答え合わせをしてあげればいい。

そもそも職場のリーダーが真剣に考えなくてはいけないのは、どうやって部下にマイナス情報をホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)してもらうのかという問題でしょう。仕事の失敗や顧客からのクレームといったマイナス情報は、部下本人の成長の糧になるだけでなく、組織としての改善にもつながる有益な情報だからです。ところが、「失敗はすぐに報告しなさい」と口を酸っぱくして言っても、そう簡単に部下は報告してくれない。ヘタに報告すると、叱られるのではないか、自分の評価が下がるのではないかと、疑心暗鬼になっているからです。

それを防ぐには、まずリーダーが部下に信頼される存在にならなければなりません。感情的に怒鳴ったり、失敗をかばいもせず部下に責任を押し付けたりする上司は、まず信頼されない。きちんと話を聞いたうえで、社長の前で「部下のミスは私の責任です」と言って守ってあげられるくらいの人間性を持つ。そこではじめて部下は安心してマイナス情報を伝えられるようになるのです。