売主側の一番の理由は、売主自身に危機感が乏しく、売り急いでいないためだと思う。今なお大半の所有者が土地の相場を正確に把握していないことも一因である。

これが、40~50年前の分譲当初に購入した本人であれば、購入当時の価格の記憶があるために、なかなか損切りに踏み切れないという心情もわかる。しかし、近年は古い旧分譲地も次第に相続が進んでいて、相続者は当時の地価高騰の時代の記憶がないにもかかわらず、売地の市場はさして変化しているようにも見られない。

より重要なのは、物件を仲介する不動産業者側にしても、安い価格にして売り急ぐメリットはないことだ。少しでも高値で成約すれば、より高い仲介手数料を得られるからだ。メリットと言えば、せいぜい取り扱い物件数の豊富さを装える程度だろう。

さらに限界分譲地には「固有の事情」が存在する。それは広告を出した時点で完結する別の市場が存在しており、分譲地の土地取引そのものよりも活発であるという倒錯した現状があるからだ。つまり、不動産業者は土地を売らずとも儲かるのである。

仲介業を「兼業」している草刈り業者

別の市場とは何か。それは草刈りだ。

千葉の限界分譲地の売地の場合、その物件広告を出しているのは「草刈り業者」が圧倒的多数を占める。不動産仲介業のほか、遠方に住んでいて、自分では土地の管理作業が難しい不在地主からの依頼を受けて、年に2回ほど草刈りの作業を行う業者だ。

草刈り業者というのは聞き慣れない方も多いと思うが、これは千葉県郊外特有の業態だろう。管理契約を締結している土地には、自社名と「○○様所有地」と依頼者の名前入りの小さな立看板を立てるのが慣習である。

茂原市内の草刈り業者の看板
筆者撮影
茂原市内に営業所を置く草刈り業者の看板。所有者の姓が記載され、「売地」の看板も並べて立てられている。この業者は自社サイトで物件情報を積極的に公開している会社のひとつ。(千葉県八街市八街は)

千葉の限界分譲地は、マンションや別荘地と異なり、分譲地全体を見る管理会社が存在しないところがほとんどである。自治会が草刈りなどの整備作業を請け負っていることもあるが、自治会のない分譲地は、地主が個別に管理会社に草刈り作業を依頼するしかない。

依頼主の大半は限界分譲地の不在地主だ。多くは都市部在住者で、草刈りを行うための道具もなければ、その技術も持ち合わせていない。わざわざ遠方の所有地に出向いて、無理して不慣れな作業を行うよりは、業者に依頼したほうが合理的である。

合理的とは言っても、使い道もない所有地の草刈りを、ただ費用を投じて続けていくだけでは、いつまで経っても出口に到達せず不合理極まりない話でもある。なんの管理もせずに雑木や篠竹が縦横に繁茂し、荒れ果てたまま放置していては、どんなに価格を下げても買い手を見つけることすら困難になってしまう。