小松 裕(国立スポーツ科学センター[JISS]ドクター)

こまつ・ゆたか 1961年、長野県生まれ。内科医、医学博士。86年、信州大学医学部医学科卒業。日本赤十字社医療センター、東京大学第二内科などを経て、2000年、JR東京総合病院消化器内科医長。05年より国立スポーツ科学センター医学研究部副主任研究員。鹿屋体育大学客員准教授。

ロンドン五輪では熱戦が展開されている。戦っているのは選手ばかりではない。実は医師も戦っている。北京五輪に次ぎ、日本選手団に帯同する国立スポーツ科学センター(JISS)の小松裕医師は選手をメディカル面でサポートし、特に「うっかりドーピング(禁止薬物使用)」を防ぐのである。

選手たちからの信頼は厚い。小松医師はアンチ・ドーピング意識を高めるため、五輪前の代表選手のメディカルチェックでは薬物についての質問を重ねてきた。今年から、問診の際には薬剤師を同席させるようにもなった。正しい知識を身に付けてもらうためだった。

小松医師は「ドーピングには気をつけろ」とは選手に言わない。そう言うと、選手がドーピングを過剰に意識し、どんな薬でも飲まなくなるからだ。それは違う。ちゃんと処方された薬で、禁止薬物が含まれていない薬ならもちろん、飲んでも構わない。「ドーピングに関するしっかりした知識を持つのが大事なんです。自分で薬の成分を調べてもいいし、わからなければ、僕らに聞いてもらってもいいんです」

小松医師は選手に携帯の電話番号を教えている。「これは飲んでもいいのか」など、四六時中、いろんな電話がかかってくる。「薬に関する知識がちゃんとあれば、飲める薬はいくらでもあるんです」という。

長野県出身の50歳。日本の選手が意図的にドーピングをすることはない。小松医師はそう、説明する。日本選手団としては、知らずに禁止薬物を服用する「うっかりドーピング」が怖い。「うっかりドーピングは絶対、出さない。もし出たら、われわれの責任でもある」という。

だから、機会をみつけては、選手にやさしく、語りかける。「自分のからだのことを知ろう。薬のことを知ろう」と。それが、自分のからだが強くなることになる。しいては、オリンピックの成績にもつながるのだ。

(松瀬 学=撮影)
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