スマホが普及した2010年代、世界はどのように変わったのか。トロント大学のジョセフ・ヒース教授と映画評論家ジョナサン・ローゼンバウム氏のインタビューを収録した『アメリカ 流転の1950-2010s 映画から読む超大国の欲望』(祥伝社)から、一部を抜粋してお届けする――。
2017年7月22日、シカゴ・グラントパークのポケモンGOフェスティバル
写真=iStock.com/Patrick Anenen
※写真はイメージです

スマホ画面のポケモンに夢中になった人々

2016年7月12日深夜。オハイオ州ペリー原発の敷地内に何者かが侵入するという事件が発生する。

そこで彼らが探していたのは……、そう、ポケモンだ。

「ポケモンGO」はAR(拡張現実)技術を活用し、現実の風景とゲームの風景を重ね合わせ、その中でキャラクターであるポケモンを探せるスマホゲーム。任天堂が開発したこのゲームは、この年アメリカでも配信が開始され、発売から1カ月で「売り上げ」「ダウンロード数」「売上1億ドルへの到達期間」など5つものギネスを更新し、社会現象にまで発展した。

夢中になった人々は、現実世界よりもスマホの画面を見て歩くため、とんでもない場所に入り込んでしまうことがしばしば起きた。人々の行動をたやすく変えてしまうテクノロジーのパワーを感じさせるものだった。

そして翌2017年、ドナルド・トランプが大統領に就任すると、テクノロジーはさらに社会を混乱に陥れる。選挙戦の最中から、SNSで過激な発言を繰り返し、注目を浴びていたトランプは、就任すると次々とSNSに投稿し、敵対する人物を罵った。

それはまるで、プロレスラーが相手を挑発するトラッシュトークのようだった。過激さがさらに過激さを呼ぶSNSを使った新しい形の劇場型政治を、大統領自らが演出した。

この頃、SNSにまつわるある言葉が注目される。「フェイクニュース」だ。ネット上で流される虚偽の情報。それは、匿名性の高いSNSで瞬く間に拡散される。大統領選ではローマ法王がトランプ支持を表明した、というフェイクニュースが流された。

現実と虚構の区別がつかない世界になった

さらに、現実に悲劇も生む。ネット上に、民主党幹部が関わる人身売買組織の根城だとデマを書かれたピザ店が、実際に襲撃されるという事件も起きた。トランプは当選後もSNSを最大限に活用した。根拠のない中傷を交え、敵対する陣営を罵倒。自分に都合の悪いことは、「フェイクニュースだ」と切り捨てる。

SNSでは自分がフォローした人の情報しか目に入らない。アルゴリズムが発達し、その人に適した情報だけを流すような技術が進化した結果、人々は自分の見たい情報にしか触れなくなってしまった。いわゆる「フィルターバブル」と呼ばれる問題だ。