そこにあったのはいつの時代もアメリカの人々の心の底にある、神秘へのときめきと得体の知れない不気味さに引き裂かれる東洋へのイメージかもしれない。

そして、この間広がっていたのは、競争が激しさを増す、グローバル資本主義だった。

国の豊かさを、あらゆるものを商品化し、市場の原理に託すことで実現しようとした、80年代のアメリカ。IT企業が圧倒的な力を持つようになった2017年。

その2つを経て『ブレードランナー2049』で描かれたのは、巨大IT企業が提供するテクノロジーが、あらゆる欲望に応えてくれる未来だ。現実社会でも、IT企業は人々のあらゆる欲望に応えてくれるかに見えた。

心の弱さを利用して広まったSNS

だが、そのSNSを強く批判したのは、ナップスターの共同設立者であり、フェイスブック初代CEOも務めたショーン・パーカーだ。既に会社を離れていた彼は自省の念をこめ、告白した。

ショーン・パーカー
ショーン・パーカー(写真=JD Lasica/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons
「アプリ開発者の思考プロセスはこうだ。
『最大限にユーザーの時間や注意を奪うためにはどうすべきか?』
そのためには写真や投稿に対して『いいね』やコメントがつくことで、ユーザーの脳に少量のドーパミンを分泌させることが必要だ。人の心理の『脆弱ぜいじゃく性』を利用しているのだ。それは私のようなハッカーが思いつく発想だ。私たち開発者はこのことを理解した上であえて実行したのだ」(CBS NEWS 11/9/2017)

「人とつながりたい」――そんな原初的な欲望すら、利潤に変える資本主義はスマホを通して世界中に広まった。

映画『パターソン』が描く資本主義への静かな抵抗

しかし、そんな時代に抗う表現も生まれている。

パターソン』(2016)は、ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手、パターソンの何気ない日常を描いた作品だ。監督ジム・ジャームッシュはこの作品で、人間の欲望をむさぼり尽くす資本主義への静かな抵抗を見せていた。

小さな町でバスの運転手をしている主人公、パターソンの趣味は詩を書くことだ。仕事の合間や帰ってから密かにノートに詩を書き留めている。しかし、その詩をSNSなどで世界に向けて「発信する」こともなく、妻がもしものためにと薦める「コピー」すらしようとしない。そのノート一冊の中だけに彼の詩はある。

資本主義が煽る欲望から距離を置き、代替不可能な唯一の言葉を淡々と生み出す人間の姿。

人々の欲望にどこまでも従順な資本主義は、いつの間にか社会を均質化していく。そして、テクノロジーがそれを加速させる。AIの発展により、個人の嗜好しこうに合わせたマーケティングが可能になると、企業は「あなたならこれが欲しいはず」と訴えかけるように情報を押し付けてくる。