「子どもを欲しいと思っている若い人が権利を奪われている」
私の研究チームは、日本の都市部で暮らす20代半ばから30代の男女80人以上に聞き取り調査を行いました。男女の割合は半々、「未婚」「既婚で子どもなし」「既婚で子ども1人あり」がそれぞれ均等になるように対象者を調整しました。さらに比較のため、アメリカやスウェーデンなど数カ国で同様の調査を行いました。
大阪で暮らす35歳のある既婚女性は、「子どもを欲しいと思っている若い人がその権利を奪われていると、すごく感じます」と語っていました。経済的状況が許さなくて結婚や出産ができない。あるいは、仕事のことを考えると晩婚にならざるを得ない。それなのに子どもを産まないのは女性自身の責任のように言われると、彼女は嘆きます。
「日本は、人間ファーストではなく、労働ファーストです」という、東京で2人の子どもを育てている別の既婚女性の言葉も、私にとってはとてもショッキングでした。夫にも子育てに参加して欲しいと願う一方で、夫が高いプレッシャーの中で非常にハードに働いている状況を、妻たちはよく理解しているのです。
今回の調査は、高校卒業後さらに大学や専門学校以上の教育を受けた人々を対象に行いました。ポスト工業社会に突入した国々の、大都市に住む若き中産階級の主流は、そういう人々だと考えたからです。彼らはしばしば個人主義的で、家族を作ることより自分のキャリア構築を優先しがちだと思われています。
しかし実際には、そうした日本の若き高学歴エリート層の多くが、心から結婚し子どもを作りたい――それもできれば2人以上――と考えていました。それなのに、そもそも結婚しない/できない、結婚しても子どもを持つことに踏み切れない、もし持ったとしても1人まで、という人々があまりに多いのです。経済的には比較的恵まれているのにもかかわらず。
休日のデートは「面倒くさい」
結婚や子育ての障壁となっている問題はいくつもあります。時間というリソースの制約もそのひとつでしょう。
4年制の大学に進んだ場合、働き始めるのは22~23歳ごろになります。就職したばかりの彼ら自身は、おそらくこう思っているのではないでしょうか。「自分はまだまだ駆け出しで、学ぶべきこともたくさんある。毎日がいっぱいいっぱいで、結婚なんてまだ早い」と。
さらに長時間労働が当たり前の日本の職場環境では、結婚へのハードルはさらに上がってしまうでしょう。聞き取り調査をした多くの日本の独身者は、「休日に誰かとデートしたりするのは面倒くさい」と言っていました。平日の仕事で消耗しきっていて、週末はただ休んでいたいんです。