「チームで動いているから…」はどこの国でも一緒

「チームで動いているから、自分だけ育児休業を取るのは気が引ける」という話を、聞き取り調査の中で何度も聞きました。でも、チームで仕事を動かしているのは他の国でも一緒です。明確なジョブ・ディスクリプションがない現状を急に変えるのは、たしかに難しいでしょう。しかし、日本は特別というエクスキューズに簡単に逃げたのでは、本当に必要な変化すら進められなくなってしまいます。

日本では転職する人がまだ少数派ということも一因かもしれません。人材の流動性が高く、家族を大事にするという個人の意志が強いアメリカの場合、有能な人材に去られたくないから福利厚生を充実させる、というモチベーションが企業に働きます。コンサルティングファームや投資銀行のように、長時間のハードワークが当たり前の職場もたくさんありますが、給料の高いそういう職場で5~6年働いてお金を貯め、別の新しい仕事を始めるというケースも少なくありません。

もっとも、アメリカには公的な育児支援はほとんどなく、民間の保育施設の料金は高いし、習い事をやらせるにしても全部親が車で送迎してやらねばなりません。日本からアメリカに来た同僚や友人から、「アメリカの人はどうやって子育てできているの?」と驚かれることがよくあります。家族への気持ち優先でみんなどうにかマネージしていますが、年々お金がかかるようにはなっていますね。

なぜ育児休業の義務付けを提唱したか

縛られる日本人』の中で私は、日本の効果的な少子化対策のひとつとして、育児休業の義務付けを提唱しました。個人が新しい規範の開拓者になるよりも、シンプルに義務化し、人事部からの指示で取得する形にしたほうが、よりスムーズに現状を変えられると思うからです。個人が責任を感じたり、非難の対象になったりすることを避けられるという意味でも、義務化することには意義があると考えます。

政策に詳しい、ある日本の友人からは、それは不可能だから本に書かないほうがいいんじゃないかと言われたんですが(笑)、一方で本を読んだ日本の大企業の幹部から「先生のおっしゃるとおりです。わが社ではすでに義務化しています」というメールをいただいたりもしています。企業が、あるいは管理職がやる気になれば、それは実現できるんです。大企業に比べてリソースの少ない中小企業での取り組みはより困難が伴うとも理解していますが、いずれは普及していくと信じます。