「感謝」「コミュニケーション」「協働」の3K

しかし、母親が不穏で興奮状態になると、鈴木さん1人では手に負えないことも。そんなときは、夫や父が救いになった。

父親は、鈴木さんが母親に薬を吐き出されて困っていると、優しく「お母さん、薬飲もうね」と笑顔で声をかけてくれた。突然カルピスでうがいをし、テーブルも床も大惨事にしてくれた母親に、「お父さんが拭いておくよー」と穏やかな対応をしてくれた。「お母さんどうしたの? 広香にいじめられたの?」と言いながら対応を代わってくれたことも。

夫も、仕事で疲れているにもかかわらず、幻覚が見える母親を否定することなく、「お母さん、泥棒は僕が退治したのでもう大丈夫ですよ! 僕がいますから安全ですよ!」と笑顔で対応してくれた。

「母親ファーストの姿勢を維持してくれた夫や父には、感謝しかありません。興奮状態の母を私より早く落ち着かせることに成功する男性陣を、尊敬する時もありました。私が『キー!』っとなってしまいそうになるときに、とっさに対応を代わってくれ、母から離れる時間をつくってくれたことは本当にありがたかった。『感謝』『コミュニケーション』『協働』の3Kは、ダブルケアには欠かせない要素だと思います」

あともう少しで届きそうな手
写真=iStock.com/Pornyot Palilai
※写真はイメージです

家族のピンチは、家族が変われるチャンスなのかもしれない。何一つ家事ができなかった父親は、今では率先して食器洗いをし、孫のおむつ替えも、ミルクもできるようになった。

「これまでは病棟経験しかない看護師でしたが、母の在宅介護を通して訪問看護の魅力を感じました。復帰後は訪問看護師として、患者・家族の思いに寄り添える存在になりたいです。また、ダブルケア支援の充実に向けた活動もしていきたいと思っていますし、プリオン病を抱える患者・家族の救いの場となるよう、家族会の設立に向けて力を尽くしたいと考えています」

鈴木さんは現在、2人目を妊娠中だ。

【関連記事】
【前編:結婚相談所で出会った教員との結婚】流産手術する妻の懇願「そばにいて」に「俺、仕事だよ!?」と完全スルー…心ない夫を改心させた母の深謀遠慮
「早く死んでくれればいいのに」家族が手を焼く認知症、統合失調症、鬱病の症状が出た母親の"想定外の病名"
「ねえ、ラブホいかへん?」夜の街で家出少女に声をかけられた牧師はどう答えたか
「教祖写真や教団本が散乱し、ゴキブリが繁殖」信者の母親に一切頼らず高校大学の学費を払った女性の生き様
妻がうつ病に…「なぜ」という夫に精神科医が「原因を探るのはやめたほうがいい」と諭すワケ